第125話 裂き乱れる兄弟愛①
ドタドタドタ・・・と大きな足音が屋敷の中に響き渡る。
「父上!」
引き戸をザシュッ!と開けて叫んだ青年が見たのは、大広間に寝かされ全く動かない自分の父だった。
「静かにしろ、ショウジ。父上の体に響く」
ショウジと呼ばれたがっちりとした体格の青年は、ゆっくりと進み、寝かされた父の顔が見える位置に座った。
「ショウタ兄上、おやじはどうなんだ?」
口と顎に髭を蓄えたショウジは、心配そうな顔を眠る父の顔から正面のショウタと呼んだ線の細い青年に向けた。
「倒れたのは昨日。意識は戻らない。医者に診てもらったが原因不明だ」
ショウジは、ショウタの下手に座る少年に目を向けた。
「トクジュ、お前はいつ来たんだ?」
「ショウジ兄上の来る少し前です。医者とは話せてません」
トクジュと呼ばれたのは、丸顔のかわいい少年だ。幼く見えるが、少年から青年に成長する過渡期である。3年前に他界した母が可愛がっていたのもわかる。
「ショウタ兄上、なんで連絡が来たのが今朝なんだ?トクジュもか?」
トクジュはショウジの言葉に頷いた。
「ショウジ、トクジュ、遅れてすまない。父上が倒れて動転してしまった。医者やら看病やらで連絡が遅れた。本当にすまない」
弟2人に頭を下げる兄ショウタの姿を見て、ショウジはそれ以上言葉を継げなかった。本当は、父が死んで勝手に家督相続をするために連絡を待ったんじゃないのか?と思い、ぶちまけようかと思ったが、その言葉は飲み込んだ。
部下たちが暴発するなと言っていたことが頭にあったのもある。ただ心配そうに父親を見守る弟トクジュの可愛い顔を悲しませたくないのもあった。
「・・・謝られたら、それ以上言えないな。良い連絡も、まあ言いづらい連絡も早めに送ってくれた方がうれしい」
「善処する」
ショウタはそう言って、頭を上げた。
「で、これからのことだが、父上が倒れてしまったからと言って、政務を止めるわけにはいかない。とりあえず長男である私、ショウタが父テルに代わって執り行おうと思うがいいか?」
ショウタは隣のトクジュではなく、正面のショウジを見ながら言質を取ろうとした。
ショウジはトクジュを見た後、ゆっくりと頭を横に振る。
「ダメだ。普通であれば長男が家督を継ぐのが当たり前だが、父上が今の今までそう宣言をしなかった。申し訳ないが、それは父上がショウタ兄上を、家督を継ぐに足りないと判断したからだと俺は考えている」
ショウジは兄ショウタを睨みつけた。同様にショウタも弟ショウジを睨みつけていた。一番下のトクジュはおろおろと2人を交互に見ているのみ。
「ショウタ兄上が家督を継ぐと民が不幸になる。だから私ショウジが父テルに代わって政務を執り行う」
眠り続ける父を挟んで、ショウタ、ショウジは立ち上がり、バチバチと火花を散らしながら互いを睨みつけていた。