第122話 ダンジョン五重塔⑭
『スザ!』
パッと目を開けた。右手は球体をつかんだままだ。
『終わったわ。このダンジョン、ダンジョン核は私のものにした』
スザは二度、三度と頭を振る。
『また何かを見たの?』
見た
スザは先ほどの光景をイズに説明した。
『スザ、思うところはいろいろあるかもしれない。でもまだあなたの知っていることは序章にすぎない。私が言えるのはここまで。でも・・・ありがとう』
イズは、ダンジョン五重塔の外見はそのままにした。
内部は今のところ、普通の部屋に戻している。5階のマスター部屋は手を付けず、カプセルが存在する、そのままだ。
イズは、イチとユウ達をこのダンジョン五重塔に呼び寄せるよう手配した。イチがここに来るまでに6日程度、ユウ達は15日前後になるだろう。
スザたちは、明日から10日程度かけて、周辺を調査することにした。キドウマルの統制を離れた魔物が活動している可能性があるからだ。
スザたちは、ダンジョン五重塔の周辺を10日かけてコヨーテやコボルトたちを見つけて根絶やしにした。周辺の安全は確保されたと言ってよいだろう。
『このダンジョン五重塔はイチに任せることにした』
5階を訪れたスザ、クシナ、ナギ、ミナミに向かって、画面の中のイズはそう宣言した。手前で立っていたイチは頷いている。シロイワからキドウマルが持ち帰ったサブのダンジョン核が見つかったので、島のダンジョンにサブダンジョン核を置いて、イチはここに住むと決した。トシとヒカルもこのダンジョン五重塔で武器などを作るようだ。
『次が、最重要項目だけど』
イズは画面の中で珍しく真面目な表情で、続ける。
『キドウマルの実験情報を入手できた。そして私が独自に持っていた情報とイチの情報などから、私の新しい体をここで作ることにする』
スザたちは、何のことかわからず、ポカーンとしたままだ。
『あー、まあわからないわよね。キドウマルが肉体を持って戦っていたのはいいわよね?』
スザは頷く。
『私にも戴冠式で見せた魔力体があるけど、あれを動かすには大量の魔力が必要で、そうするにはダンジョンでの活動が必要になる。でも、そんなこともできないので、疑似人格で通常は済ませていたのよ』
スザは、イズが小さく首を振ったので、何も言わなかった。地下室のイズは黙っておけということなんだろう。他には明かしたくない秘密がまだあるらしい。
『でも、キドウマルの情報を利用すれば、少ない魔力で活動できる肉体を作り出せるのがわかった』
クシナは手を上げた。イズは頷く。
「でも、イズ様。キドウマルは、私たちの前で肉体が崩壊して、結局最後には魔力体を作ろうとしていました。大丈夫なのですか?」
「すこし条件がありますが、大丈夫」
イチが答えるようだ。
「私の体も基本はキドウマルのもので、そこにキドウマルの集積情報にあった竜、ワイバーンの遺伝子情報を取り入れて、この戦闘体を作ったのね。キドウマルはなぜか自分の体はどこかで手に入れた半魔人の遺伝子をずっと複製して使っていた。自分が持っていた竜や魔物の遺伝子情報を入れることをしなかった。もしかして人間と魔物の遺伝子情報を掛け合わせることができると知らなかったのかも。その結果、劣化し肉体が崩壊した」
遺伝子?まあ、わからないことは置いておこう。
「でも私がやったことを見て、一度実験したようなのよ。その実験体がキドウマルの統制下を離れ、どこかへ逃げ出した。それでさらに恐れて実験を中止させ、当初予定通り、私の上位にあたる存在がここに来ることを待っていた」
『自分が勝てず、逆に私に今までの実験情報を渡す羽目になったのは、想定外だったと思うけどね』
「で、イズ様の肉体を作り出す条件だけど」
イチは真剣なスザ、クシナを見た。
「スザとクシナの血液が少し欲しい」
「了解」
「了解」
スザもクシナも簡単に了承した。イチが、え!?って顔をして2人を見ている。
「どうすればいい?切る?」
スザが手を出して、左人差し指を右人差し指でスッと着る真似をした。
「・・あ、いや、注射器と言って、血液を血管から取る器具があるから、それで取るわ」
イチはすぐさま注射器を2本準備し、スザとクシナの腕の血管から血液を抜き取った。
『ありがとう、スザ、クシナ』
イズは画面上で頭を下げた。クシナは驚き、あたふたしている。
「イズ様の体ができて、動けるようになるには30日は必要だと思う」
『そこで、まだ未調査のダンジョン五重塔から西、海岸線に沿って島の村までと、東に向かって調査を進めてほしいのよ』
スザは頷いた。