第121話 ダンジョン五重塔⑬
それからほどなくしてスザへの治療が完了した。
「行こう!」
スザの声に4人は頷き、キドウマルが現れた開けっ放しの扉の中に入って行った。
「こ、これって・・・」
クシナはそれ以上何も言えなかった。そこには無数のカプセルがあった。そう、イチの部屋にあったようなカプセルが、数えきれないほどだ。
カプセルには液体が詰められ、天井から管が何本も繋がっていた。
なんだ?これ・・・イチ様の本体が入っていたものとほとんど同じ
『キドウマルの部屋に入ったの?』
久々のイズだ。
スザを先頭に、4人はゆっくりと前へと進む。先で何か小さいが音がするのだ。
透明の楕円形の筒の中に、キドウマルのような、違うような人間の形をしたものが浮いているんだ
『イチが言っていた、キドウマルの体ね。奥にダンジョン核があるか、ダンジョン核が置いてある部屋があるはず』
今、皆で進んでいるよ
ペチャ・・・ズル・・・ペチャ・・・ズル・・・
濡れたものが引きずるような音がどんどん大きくなってきた。
開いたカプセルがあった。その下に何か動いている。
白い毛のようなものの下に肌色のグニュグニュした物体がゆっくりとこちらに進んでいた。さっきの音は、これだったのだ。
「スザ、何これ!?」
「スザ様ぁ・・・気持ち悪いですぅ」
クシナとミナミはスザのマントの後ろに隠れた。でも好奇心を隠せず、マントの横から目だけを出して、その物体を見ている。
その物体も動きが鈍くなり、止まった。そしてべちゃぁと床に広がった。
『魔力が足りないのか!?いや、やはりコピーによる遺伝子の劣化が招いた結果か!』
扉はなかった。
壁はあった。その壁に球体が埋め込まれ、そこから光が壁に走って行っている。よく見ると、壁の模様が天井までつながり、その天井から管を介してカプセルに繋がっているのだ。
『魔力体を!早く!体を構成できない!?ああ!少なすぎる!もっと魔力を!』
カプセルが淡く光り、管を通って天井から壁、そしてその中心の球体に集まって行っていた。
ダッとスザは一気に球体に走り寄った。
「スザ!?」
クシナの声を背に受けながら、球体を右手でガッと掴んだ。
目の前に、地面から生えた紐のようなものに体を縛られた白い髪の子供が座っていた。
白い着物と紺の袴。キドウマルだろう。
スザの体から金髪の美女が現れ、近づく。イズだ。子供は顔を上げ、イズを睨みつけながら何かを言っているが、スザには何も聞こえない。
イズは子供の体にまとわりついた紐に手をかけ、何本か切った。子供は涙を流しながら、ものすごい勢いで首を振る。
何かを話しているが、子供は首を振るだけ。いつの間にか、子供の首、体に巻き付いた紐が締まり、地面に固定されてしまった。
子供はなぜか自由になった右手を着物の左胸に手を突っ込んで、イズに何かを差し出した。透明な小さな球体。イズはそれを受け取った。無表情で目を瞑った少年は、紐によって首も体も引きちぎられ、地面に吸収された。
イズは受け取った球体を見つめる。
一本の紐がゆっくりと地面から頭上高くまで伸びた。すこし紐の先端が下に向く。そこには球体を見つめるイズがいた。イズはそれに全く気付いていない。紐はイズに向かって急激に落ちていく。
危ない!
そう思った時、紐は弾かれたように吹き飛び、また頭上高く伸びて先端を下に向けた。
「ジャマヲスルカ。ワレガツクッタイノチ。イズレハマタワレノモトニ」
そのまま紐は消えていった。
山が火を噴く。
大地が割れる。
灰色の、透明の、銀色の、巨大な塔や箱が倒れ、何かが現れる。
魔物。逃げ惑う人々。潰し、焼き、食う。
人々も戦っている。空を飛ぶ箱、火を噴く箱、魔物を粉々にさせる長い棒。
倒しても倒しても魔物が現れ、人はどんどん追い込まれていく。
魔物を倒すことができる箱も棒も現れなくなった。人は次々に死んでいく。
突然、魔物たちの動きが止まる。
火を噴いた山には洞窟が、割れた大地からは塔が、山が、湖が現れた。
目の前には赤い妖艶な美女と氷の鎧を纏った騎士が跪いていた。その前には氷漬けの腹の大きな女性が横たわっていた。
カプセルの中の体は奇形のものが多くなっていた。自分の手が皺だらけになっている。
右足と左腕が鱗に変異した女性が一つのカプセルを抱いて逃げようとダンジョンの中を走っている。赤の美女と氷の騎士は首を振りながら、跪いた。
カプセルの中には肉体が浮いていた。それが無数にある。
一つが変異していた。体中が鱗に包まれ、顔も竜のようだった。
いつの間にか、そのカプセルが壊れ、床には液体だけが飛散していた。