第120話 ダンジョン五重塔⑫
2021.8.9一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
地面を切り裂いた斬撃を、クシナ、ミナミを抱えて宙で見送ったスザは、
「ミナミ!」
叫びながらクシナとミナミを左後方へ投げた。直後、アヤメの剣を上から右方向へ振り抜く。
「そんな適当なもの!」
キドウマルは刀で弾き、がら空きの右脇腹に突進した勢いと捻りを加えて、ドゴォッ!と右足を蹴り込んだ。スザは一瞬で宙から消え去る。ドオォン!と爆発したような音と土煙を上げ、スザは地面に激突していた。
「ん?」
土煙がボッ!ボッ!と弾ける。
キドウマルは刀を二度振り、甲高い音を立てて飛来物の軌道を変えた。
「相も変わらず氷か!」
キドウマルは、宙でグッと身を縮め地上に飛び込もうとした時、稲光がキドウマルの刀を直撃した。
ガガピシャァッ!
「があぁ!」
キドウマルは、体から煙を上げながら、気を失い頭から地上に落下していく。
土煙の間から、スザは右脇腹を押さえながら、顔をしかめてそれを見上げていた。
水クッションで地面の激突は和らげることができたが、脇腹への蹴りは結構なダメージだった。しかし、少しずつ痛みが和らいでいるように感じる。鎧の胸に付いているユリの魔石が輝いていた。
ミナミがスザの元に走り寄る背後、地上から無数の炎の槍が宙に向かって飛び立つ。それを追うように放たれる斬撃も見えた。
キドウマルの体は焼かれ、切り裂かれて地面に落下していく。
スザは治療し始めたミナミに笑顔を見せた後、
「おおお!」
と気合を入れた。
地上から巨大な土槍が現れ、キドウマルの体を貫き、宙に固定した。ブシュッ!と血が飛び散り、土槍を赤く染める。
「がああ!まだだぁ!」
痛みに失った気を取り戻したキドウマルは、口から血を吐きながら土槍を刀で切り、地上に降り立った。そして、残った槍を抜く。穴はどんどん小さくなり、そして穴は塞がる・・・はずだった。流れゆく血に、キドウマルは地面に膝をついた。
「なぜ!?なぜ治らない!?あ!?」
突如キドウマルは動きを止めた。そしてぱたりと前に倒れこんだ。ジワリと地面に吸収されていく。
「死んだ!?」
ナギは驚き、叫んでいた。普通は死なないとダンジョンに吸収されないのだ。
「あっけない。あっけなさすぎる!」
スザの言葉に、クシナもナギも視線を交わし、大きく頷いた。
「動いちゃダメです♡!」
クシナたちに走り寄ろうとしたスザを、ミナミは手で押さえ、治療を続けた。
「ごめん。ありがとう」
スザは謝った後、ミナミの頭を優しくなでた。
「がああ!なぜだあぁ!」
扉から裸の男が飛び出してきた。左手には鞘ごと刀をつかんでいる。
キドウマルだ。体は濡れまくり、白い髪はべったりと顔についている。後ろにまとめられてはいない。
「抗ってきたではないか!これが運命だというのか!?そこに希望があるというのにか!?」
刀を抜き、その剣先でスザを指す。スザはミナミを背後にかばった。
「私は、希望を手に入れるのだ!」
そう叫んだキドウマルは右手に握った刀を大きく振りかぶった。そして渾身の力で振り下ろす。
ボッ!と音を立てて、数m先に飛んだ。斬撃のはずが斬撃ではなかった。
「あっ!?ああっ!!!!」
右腕がなかった。血が噴き出ている。
地面に突き刺さった刀とそれを握る右腕と右肩。自らの力に体が耐えきれず、肩の関節から根こそぎ吹き飛んだのだ。ガクッと両膝を地面についた。
「な・・ぜ・・・」
そのまま前方にパタリと倒れ、体が再び地面に吸収され始めた。