第114話 ダンジョン五重塔⑥
2階は暑かった。季節は夏。青い空、緑に輝く山々。遥か先に見える山の上には巨大な入道雲があった。川が流れていた。ここは河原だ。丸い石がたくさん転がっている。その先に、巨大な茶色い塊が鎮座していた。
魔物名:地竜 特徴:土属性の竜。土魔法を操る。地に潜ることができる。口から火を吐く。 属性:弱点をなくしたよ(改変) 備考:小さな翼はあるが、空は飛べない。
「あれだけじゃない。他に2体の地竜が地面に潜んでいる。また弱点がなくなっているから気を付けて」
スザはそう言うと、突然身をかがめて地面に両手を付けた。目を瞑り、何かを探っているようだ。するとクシナが見ている中、パッと目を開き、
「ハアァアァッ!」
気合の声の後、地竜の周辺が突如ドウッ!と爆発した。爆発点を中心に石と土が噴き上がる。その中から巨大な影が2体飛び出てきた。すでにナギが影の目前にいて、一閃。土煙と共に2体の影が4つに分かれた。
「ガアアア!」
鎮座していた地竜が頭上のナギに向かって咆哮を上げる。それは炎を伴っていた。ナギの足元が赤く輝き、足に届く直前、ゴウッ!という音と共に炎が直角に曲がった。地竜のブレスはナギには届かず、地面と平行に吹き飛ばされ続ける。クシナの周囲から無数のランスが噴き出し続け、ブレスの方向を変えたのだ。地竜は届かないブレスをやめ、頭を下げる。
胸の魔石が輝き、ナギは宙を蹴る。クルリと回転し、音もなく着地した。そこは地竜の頭部。
「ガアア!」
地竜は頭を振り上げ、ナギを宙に飛ばし、口を開けた。落ちてくるナギをかみ砕こうというのだ。
一陣の風が舞う。
「遅い」
地竜はその静かな声を下から聞いた。剣圧が河原を叩き、地面の石が激しく飛び散った。剣を振り抜いたナギの後ろで、地竜の首がゆっくりとずれ落ちていく。自らの首を追うように、力を失った胴体がドォン!と地響きを立てながら地面に崩れ落ちた。
スザたちが3体の地竜から魔石を回収している映像を見ながら、
「1階、2階で1時間も経ってないぞぉ。俺の部下たちはそんなに弱いのかなぁ?」
杯をグビッとあおったキドウマルは、後ろに立つ男に空になった杯を放った。眼前でバシッと受け取った男は、何事もなかったようにキドウマルに近づき、瓶から酒を注いで杯を差し出す。
「次は私の階です。ご心配なさらずに」
氷の鎧を着た男はキドウマルに一礼し、その場から瞬時に消えた。
「頼むよぉ、氷竜レイゼ」
キドウマルの目は、スクリーンに映る3階の扉を開くスザたち4人を見つめていた。