第112話 ダンジョン五重塔④
スザたち4人は、キドウマルの待つダンジョンに向け出発した。島の村の門を抜ける時、皆が天にスザたちの無事を祈っていた。
キドウマルのダンジョンまでゴーレム馬の移動で5日前後かかる距離だろう。
馬上のクシナもミナミも新たな防具を付けている。昨日、イチ様からもらったのだ。
クシナは胸と股間、両腕、膝から下に赤色の防具を付けている。胸には土色の魔石。地竜の魔石を組み込んだ防具で、イチ様と同じように素肌が出まくっているが、魔力の波動が体全体を守るようになっていた。着た時にはキャーキャー言って恥ずかしがっていたね。
ミナミは緑色の防具でワイバーンの魔石が胸についている。割と短いワンピースで、太ももの真ん中ほどの長さだ。布のようにふわふわしているが、攻撃を受ける時には硬化して体を守るらしい。ブーツも緑色だ。不満そうな顔で受け取ったが、似合ってるよって言ったらニコニコ顔に変わったね。
攻撃については、クシナもミナミも追加の武器はなかった。2人の魔法より強い魔法武器など作れないってイチ様がぼやいてましたよ。
道は魔物たちが行軍していたため、何事もなく通行できた。途中に魔物も人間もおらず、野生動物を狩っては、食事にしていた。
そして6日目の朝、キドウマルのダンジョンに着いた。それはとても美しいものだった。
雪が舞っていた。
手前には池があり、その奥にダンジョン五重塔が見える。その名の通り、5つの屋根が重ねられているのだ。
ダンジョンと呼ぶよりは、美しい木造建築の建物である。周りの木々にも屋根にも雪がうっすらと積り、幻想的な美しさを見せている。
あの戦一辺倒のキドウマルからは想像できないダンジョンの外観だ。
ギギギ・・・と音を立てながら、1階の観音扉が開いた。
中に入れということだろう。
4人はゴーレム馬から降り、馬の座の下から食料など必要最低限のものを持って、スザの元に集まる。4人は目を合わせ頷き、開かれた入口に入って行った。
中に入った。背後で観音扉がドンッ!と閉まる。
そこは広い空間だった。細い川が流れ、両側にピンク色の花びらが咲き乱れる木々が天を覆うように生えていた。ひらひらと花びらが宙を舞い、川面に落ちる。花びらは川の流れに沿って流れ、時には渦に巻き込まれ、下流へと流されていった。
「どうだ?一杯やるか?」
4人は声をかけた人物に視線を投げた。花びらの咲き乱れる木に背を持たれさせ、一人ぐいっと杯をあおる。
「綺麗だろう。桜の木々だ。この1階は春を想像して作っている。2階は夏。階を登るたびに季節が変わる。遥か昔の失われた風景だよ」
そう、キドウマルである。
刀も持たず、ただ4人の前で桜を愛で、酒を飲み続けているのだ。
「よくぞ、俺の招待に応じてくれた。各階にボスだけを配置した。戦争は数なのだが、面白みに欠ける。俺の配下を見事に倒し、俺が待つ5階に来てくれ」
もう一杯あおり、キドウマルは立ち上がった。そしてスザを見る。
「イチはいい仕事をしたようだ。それに精神的にも一つ上に上ったのか・・・」
キドウマルは、スザの動きに隙がなく、堂々としていることを見て取った。そしてスザの目に濁りがないことも見抜いた。復讐とか敵討ちとか、そんな低次元を抜けたことがわかったのだ。その目は、キドウマルの先を見通しているように思える。
「いい戦いができそうだ」
キドウマルはニヤリと笑い、桜から離れ、草原の真ん中に立つ。そして右手を掲げ、指をパチンと鳴らした。
「ギャオオオ!」
鳴き声と共に、ズドン!ズドン!ズドン!と大きな音がキドウマルの背後で響いた。