第109話 ダンジョン五重塔①
スザの目の前には、魔石が4つ並んでいた。セイラ、ユリ、アヤメ、レイのものだ。
装備がキドウマルの攻撃によって破壊され散り散りになった時、セイラの魔石も行方知れずになったが、意識を取り戻したクシナとミナミが探してくれていた。
スザは島の村、イチのダンジョンに戻っていた。今はイチの部屋にいる。イチが作業机に座り、応接台の上の魔石を見つめるスザを見ていた。
キドウマルに、ユリ、アヤメ、レイを殺されて6日が経っていた。キドウマルの言葉通り、魔物の攻撃は再開されていない。あの中継基地シロイワにもキドウマルが残っていた魔物を一掃して以降、魔物は姿を現さなかった。
『で、道中考えて、今後どうするか決めた?』
壁から発せられる声に、スザは顔を上げる。
壁はスクリーンになっており、金髪美少女イズが映っていた。イチがイズと通信できるように、昨日このダンジョンに戻ってから改造したのだ。
スザは深く頷く。そして口を開け・・
『復讐とか、敵討ちとか・・・そんな馬鹿な理由でキドウマルと戦うなんてやめてよ』
スザは、イズに言葉を発することができなかった。
『あんた、覚悟が足りないんじゃないの?・・・イチ、申し訳ないけどクシナ、ナギ、ミナミを連れてきて』
イチはイズの要望によって3人を部屋に招き入れた。
クシナとミナミはスザを挟むように左右に座り、ナギは別の椅子に座った。
『スザ、あんた言ったわよね。あんたが訪れたすべてをイの国にするって』
もちろんスザは頷く。
『それは、こちらから戦争を仕掛けるってことと同じことよ。それわかってる?』
スザは画面のイズを見つめたままだ。
『二つ川の村、きつねの村、砂浜の村、そしてこの島の村。これらは魔物の攻撃にさらされて、滅亡の危機にあった。そこにスザ、あんたたちが救世主として現れ、魔物を撃退、解放したからイの国の一員になることがすんなり受け入れられた』
スザは先ほど、村長センと軍司令タカからイの国の一員になるとの話を受けていた。
『でも、普通の暮らしをしている人たちがいたら、突然外から強大な武力を持った人が現れ、自分たちの一員になれっていうのよ。脅しであり、宣戦布告されたと思って戦争よ、普通』
「・・俺はそんなことはしない」
クシナもミナミもうんうんと頷いている。
『はあ・・・そんなこと、私たちはわかっているわ。でも、それはあんたを知っているからこそ。あんたを知らない連中からしたら、あんたの強さは脅威であり、死の象徴』
イチは頷いている。
『あんたを受け入れないものたちは、あんたを殺しにかかる。あんたが強すぎるというのであれば、あんたの周りを崩しにかかる。それはイの国であり、クシナであり、ミナミであり・・・自分たちが手を出せるところから、知らないうちにやってくるわよ』
考えにはまるスザを、クシナもミナミも心配そうに見守っている。
『そして、今回のキドウマルはこれに当てはまるのよ』
スザは驚きの表情で画面の中のイズを見上げた。
『あんたもクシナもミナミもナギもわかっていないようだから言うけど、今のこの世界は、人間を滅ぼすための世界なのよ。ダンジョンが各地にあり、そこから魔物が現れる。食料も足りない。魔物を倒す武器も原始的なものしかない。圧倒的に人間より数が多く、強すぎる魔物。この世界の主は人間ではなく、魔物。つまり、ダンジョンマスターが支配する世界』
コヨーテ、コボルト、ワイバーン、地竜、そしてキドウマル。柵に囲まれた村。疲弊して沈む人々の表情。スザ、クシナ、ミナミ、ナギはイの国を出発してからの日々を思い返していた。
『その、人を滅ぼすのが当たり前の世界に現れた、均衡を壊す存在。それこそがあんたであり、あんたたち。そして私たちイの国。魔物やダンジョンマスターからの視点で見ると、私たちは日常の世界を破壊する脅威の存在。であれば、できることから攻めるのが当たり前』
まあ、キドウマルの考えは、たぶん違うと思うけどねとイズは呟く。
『あんたが外に出ると決めた時から、これは私たちと魔物、ダンジョンマスターとの戦争なのよ。戦争だったら弱い方が負けるし、味方も仲間も死ぬわ。最終的に自分たちが勝つためにはどんな手も使ってくる。わかるよね?』
スザ、クシナ、ナギ、ミナミは頷いた。