第107話 命散って⑦
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ありがとうございます。
今週もがんばります。
スザはおかしいことに気付いた。魔物たちはまだ要塞に攻撃を仕掛けていたのだ。
戦闘は続いている。知能の低い魔物は、自分たちより格上の存在がやられたら逃げようとするのが常識だ。それがワイバーンも、ここのボスである地竜も倒されたのに攻撃を続行している。
キラリと地面が光った。
スザは目をやる。ダンジョン核とその球は表示された。そして、空間が揺らぐ。
「ダンジョン!?」
スザは叫んだ。目の前が揺らめき人の足が現れた。草履だ。そしてすっと全身が登場する。
名:キドウマル 特徴:ダンジョンマスター。他は表示拒絶 属性:表示拒絶 備考:戦いが好き。やる?(改変)
白い髪、白い肌。上は白の着物で、下は紺の袴。髪は後ろで束ねている。左手には刀を鞘ごと持っていた。目鼻立ちはくっきりとしたハンサムだ。
「地竜の反応が消えたようだから来てみたら・・・やられていたなんてな・・・」
顔が動き、スザ、クシナ、ナギ、ミナミと目で追う。
「ほう。今の世界では珍しい。1階、2階の奴らじゃそりゃ勝てないな・・・でも今のままじゃ4人で戦っても3階から上はダメだろうが・・・でも、全然いいねぇ」
キドウマルは視線をスザたちの奥、要塞へ向けた。
「おお!イチのやつ、きちんと生きてるねぇ。で、俺の想定のようには中々動いてくれなかったけど・・・」
スザを見据え、ニヤリと笑う。
「やっと、俺の思惑に乗ってくれたようだ・・・おい、お前」
視線はスザを直撃したままだ。
「俺と来い。そうしないと・・・」
クシナ、ミナミ、ナギと視線が動いて、
「こいつら、ここで殺すぞ」
ケラケラと笑い始めた。
その姿を見て、スザはゾッとした。自然体の隙だらけ。殺気のような圧もない。だからかもしれない。底知れぬ恐怖を本能が感じていた。
ナギが3人を守るように前に出て剣を構える。
「お、ただの人間君ががんばる?」
「ハアッ!」
中段から一気に踏み込み、剣を袈裟懸けに振るう。
「なっ!?」
キドウマルは左手に握った刀を抜くこともなく、軽く上げていた。その鞘にナギの一撃が止められていた。キドウマルの顔は先ほどと変わらず、笑顔のままだ。
ナギは額に汗をかいていた。直ぐに剣をひっこめ、中段に構えなおす。
「おお・・鋭い剣戟だ。人間にしては素晴らしい。地竜が負けるのもわかる。でもねぇ・・・」
鞘のまま刀を振り下ろした。それだけでナギは衝撃を受け止めきれず、背後に吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がった。
「装備はいいけど・・・俺と遊ぶなんてできないねぇ」
ガキッ!
キドウマルの首の前で雷を帯びた剣が止まる。
「おお!鞘に傷が入った・・・」
キドウマルの背後から繰り出されたスザの首狩りの一撃は、キドウマルが呟いたように刀の鞘に半分ほど切れ込んで止まっていた。
「なまくらの剣に雷を帯びさせただけで、この刀に鞘とはいえ傷をつけるなんて、きみ、中々すごいねぇ・・・背後の人がよっぽどなんだろうねぇ」
地竜が倒された付近で戦塵が上がったことにイチは気付いた。何かが起きている?イチは自分の体が何かを感じていることがわかった。
「あれは、キドウマル!?」
その感覚がこの体の元、キドウマルを感じているようだ。
ユリ、アヤメ、レイの3人がイチの元に駆け付けてきた。
「危ないです!スザ様が!危ないです!」
その真剣な表情に押され、イチは3人を抱き宙に躍り上がった。