第106話 命散って⑥
2021.8.7一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
要塞に向かう魔物たちの後方を潰しながら、スザ、クシナ、ナギ、ミナミは合流を果たした。たった4日会えなかっただけなのに、スザはとても懐かしく思えた。そして何でもできるという安心感を得ていた。
「無事でいてくれてありがとう」
スザは自然と笑顔で感謝を伝えていた。クシナとミナミも笑顔で、
「スザも無事でよかったわ」
「寂しかったですかぁ♡?」
スザは苦笑いしながら、それには答えず、
「魔物をあの要塞に引き付け、遠距離攻撃で殲滅する。予定通りに推移しているけど、予定外が一つあった」
スザの顔が引き締まる。そして後方を指差し、
「あそこにいる地竜だ」
スザの示した方向にクシナ、ナギ、ミナミが視線を動かす。3人とも目をキョロキョロとさせているだけだ。
「いないわよ」
クシナの怪訝な声にスザはバッと顔を振った。
「いない?・・・地竜がいない」
その時、ゴゴゴゴ・・・と地響きを立てながら地面が上下に細かく振動し始めた。気配感知が地中に何かいると教えてくれている。
「まずい!」
スザはクシナとミナミを抱き、ナギも抱いて宙に躍り上がった。
その足元を掠るように土が噴き上がる。そしてスザたちは見た。足元に広がる巨大な穴を。それは巨大な牙を周囲に生やしていたのだ。バクッ!音を立てて穴が閉じた。口だ。地竜の口が地面から突出してきたのだ。ズズン!宙に舞った地竜は音と振動を立てながら、4本足で着地した。
「ガガガアァガァ!」
咆哮を上げながら、地竜は首を左右に振る。縦に長細く、中央の胴体は樽のようだ。樽から尻尾と首が生えているように見える。体長は10m強、幅は約3m。茶色で背に小さな翼が2つ生えている。体中に岩のような鱗があり、所々が尖っている。目の上には2本の角が前に向かって生えていた。
「何だ!?」
兵士たちの攻撃の手が止まる。魔物たちの背後に巨大な茶色の竜が現れたからだ。
「大丈夫!」
兵士たちを鎮めるように、安心させるようにイチが堂々と胸を張って宣言した。
「スザたち、イの国の英雄がいる!見なさい!」
イチの指差す方を兵士が見た。そこには炎の槍を噴出させながら地に降りていく4人が見えた。
「大丈夫!あれはスザたちが倒すわ!私たちは私たちのすべきことをするわよ!さあ!目の前の敵を殲滅するよ!」
「おう!」
イチの声に正気を取り戻した兵士たちは魔物への攻撃を再開した。
「私とスザ様ががんばりますぅ♡!」
宙を舞いながらスザから鑑定結果を聞いたミナミは笑顔で宣言した。
「俺も行ける!」
ナギも頷いた。ナギの新装備はワイバーンの魔石から力を得ている。風属性を持っているはずだ。
「私だって役には立つ!とどめは任せるわ!」
クシナは眼下に見える地竜にフレイムランスを叩きこんだ。鱗を破壊するまでには至っていないが赤熱はした。傷を与えることは可能なように見える。
スザは風魔法を調整して、要塞とは反対側の北側に着地した。もちろん要塞側に行かせないためだ。スザは、もし地中からの攻撃を最初に皆がいる要塞にしていたらと思い、ゾッとしていた。あの一撃だけで全滅していた可能性もあるのだ。
スザたちは10m程度離れて基本隊形を取る。いつものように、ナギが先頭でその後ろにスザ、その後ろにクシナとミナミが並ぶ形だ。
地竜は4本足でドタドタと進み、距離を詰める。
「早い!」
クシナの声に全員が心の中で同意した。
竜というよりはトカゲだ。急に体を回転させる。尻尾がしなり、すべての勢いを乗せて振り込まれる。
ドゴォ!
「ギャガァガァ!」
地竜は叫び声を上げ、尻尾をひっこめた。尻尾に数か所穴が明き、血が流れ出している。スザたちの側面を守るように土壁ができており、その前面には氷の壁といくつもの円錐が飛び出ていた。尻尾はこの氷と土の壁を壊すことができず、逆に円錐によって穴が明いてしまったのだ。
ナギは尻尾をひっこめる動きに合わせて、地竜との距離を一気に詰めた。そして手にした新たなる武器を振る。幅広の剣の柄の根元には巨大な緑の魔石が組み込まれていた。地竜の右前足がスパッと切れ、血の華が咲く。右前足が力を失い、地竜は右前方に傾いた。ナギはそのまま体を回転させながら地竜の右側面を移動し、尻尾の根本まで一瞬で進んでいた。
ナギの移動した後の地竜の右側面は鱗が切り刻まれグズグズになり、血を噴出していた。苦し紛れに、地竜は尻尾をナギに向かって振る。それが当たることはなかった。ナギは勢いを保ったまま宙を舞い、体を捻って回転力を横から縦に変えた。クルクルと縦回転した力のすべてを剣に乗せ、ナギは腕を頭上から振り抜いた。ドシュッ!音と共に血が飛び散り、切り離された尻尾が宙を舞う。
「ギャギャガァ!」
地竜は悲鳴を上げ、ナギとは逆方向に体を横回転させ逃げていく。そうはさせないと、ナギは地竜に突進した。
「危ないっ!」
スザは叫んでいた。地竜は突如体を跳ね上げていた。口を大きく開け、頭上からナギをかみ砕こうとする。魔法でも援護は間に合わない。しかしナギは冷静だった。
剣の魔石が光った。そして刀身が中央からバガッと二つに分かれる。ナギは二股に分かれた剣を両手に持ち、天を突くように頭上に掲げた。ちょうど口を開けた地竜が真上にいた。
ドバアァァン!
音と共に光が頭上に伸びた。地竜が空中で止まったように見えていた。ズルッ・・・地竜が動き始める。しかしその動きは想像とは違っていた。中心からずれ、地竜が真っ二つになり、ズズンッ!と地上に落下した。
コンッ!小さな音が鳴り、こぶし大の光り輝く球が数度地面を跳ね、転がって止まった。
「うおおお!」
歓声が要塞から上がる。地竜が倒されたことがわかったのだ。
「すごいわぁ」
「ナギさん、カッコいいですぅ!」
「・・・俺もイチ様に頼んで新しい装備作ってもらおう・・・」
地竜の血を浴びたはずが、髪と顔だけ真っ赤になり、鎧と剣は銀色に輝くままのナギが帰ってきた。スザは、水をナギに浴びせながら、
「すごいです。さすがナギさんです。これからも俺たちを守ってください」
そう頭を下げていた。ナギは濡れた美しい銀髪と笑顔で、
「もちろん。これからも皆さんを守ります!」
3人を見て宣言した。
「宜しくお願いします」
「よろしくですぅ」
クシナは頭を下げ、ミナミはポニーテールを左右に振りながら答えていた。