第104話 命散って④
2021.8.7一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
「・・・あの・・・いいのでしょうか?」
「ああ、全然大丈夫」
アヤメはスザの首に両腕を巻き付け、スザにお姫様抱っこされたまま、顔を赤らめていた。スザは何の重さも感じていないように走り続ける。その背後には魔物の軍勢が迫っていた。
そして突然、宙からワイバーンのブレスがスザたちに迫るが、アヤメのウォーターウォールや、風魔法を使った瞬間移動で避け続けている。目指すはもちろん、南の要塞だ。
攻撃を避けるだけではない。魔力の消費を抑えながら、魔物の間引きもしなくてはいけない。
スザは速度を緩めて魔物を引き付け、届きそうと思わせた時にフレイムウォールを背後に発生させる。勢いで魔物たちは勝手に炎の壁に突っ込み、勝手に焼かれていく。避けようにも周りには他の魔物がいるため、そのまま炎に突っ込むしかないのだ。
さらに背後だけではなく、進軍してくる魔物の間にいくつも炎の壁を立ち上げ魔物を焼死させていく。消費する魔力に比較して、遥かに成果の方が大きい。
スザはシロイワにいる魔物をざっと見積もっていた。
コヨーテとコボルトで1,500弱。ワイバーン4体に地竜1体。最初の攻撃から、要塞まで半分くらいの距離まで今戻ってきている。その間に300くらいは減らせたと思っていた。
地竜はまだ動かない。動いた時が勝負で、その時に対応を取れるのはスザたちだけだろう。スザたちが地竜を相手にしている間に本体である村連合軍が負けるなんてことはできないので、ある程度の数まで間引きする必要があった。
一番やっかいなのは、やっぱりワイバーンだ。
スザは空を飛ぶ4体のワイバーンを見て、最大の脅威と理解していた。ワイバーンはあの要塞の壁を飛び越え、兵士たちに直接攻撃できる。上空からの一撃離脱攻撃を防ぐことができても、ワイバーンを倒す手段がほとんどないのだ。
イチと新たな魔法大砲でも対応できるのは1体くらいだろう。消耗度によっては、1体でも負ける可能性は否定できない。だからスザたちがワイバーンさえ倒しておけば、あとは時間が解決する。あの要塞の上からゆっくりと魔法銃と弓を打ち続ければいいのだ。
「ということで・・・」
突然の独り言にアヤメはスザの大きな目を見上げた。
「ワイバーンの数を減らすよ」
アヤメの視線に気づき、スザは目線を下げ、笑顔で見つめた。アヤメは顔をまたまた赤らめ、
「はい」
と、返事する。
突然スザはアヤメを抱いたまま飛び上がった。もちろん風魔法で宙に自らを打ち上げたのだ。一番近くに飛んでいたワイバーンがそれに気づき、突進してくる。ワイバーンは自分のように人間が宙を自由自在に飛べないことを知っているのだ。大きく口を開き、口腔が赤く輝き始めた。
「もちろんそう来るのはわかってる!」
スザたちとワイバーンの間に、人頭大の氷の塊が無数に浮かんだ。ワイバーンが気付き、ブレスを吐こうとした時には、ワイバーンの顔、口、胴体に氷の塊が突き刺さっていた。
ワイバーンは力を失い、突進した勢いのまま地上に落下した。もちろん、その下には魔物がいた。激しく地面に激突後、大量の魔物たちを押しつぶし、土煙と共に弾き飛ばしながら地面を削ってワイバーンは停止する。
その時には、すでに息絶えていた。