第102話 命散って②
またブックマークをして頂きました。
ありがとうございます。
2021.8.7一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
スザとイチ、タカの3人は大地の様子をうかがった。読み通り、魔物の群れは遥か先にいるようだ。小さい影が空を飛び、黒い塊が薄っすらと大地に広がって見える。
スザは登り口側を背に、土地全体を隆起させた。高さは6mを超えている。ワイバーンが立っても壁上には届かない高さにしたのだ。もちろん端は落下防止のために腰の高さまで壁が立ちあがっている。
上から見ると北側に3つの角が等間隔で飛び出たような形に見える。
角の根本と中央付近には地下に潜る階段が設置されている。6mの土の中に部屋が作られており、地下で行き来できるようにつながっていた。
登り口の下側の平野にも先に土壁を幾重にも設置した半円の陣地を形成していた。もし南側から魔物の攻勢があったとしても防ぐよう考えていた。
これらをスザは朝から始め、昼前にはすべて作り終えていた。これらを間近で見ていたタカや兵士はものすごい勢いでできる要塞をただ茫然と見ているだけだった。
昼食の後、スザはイチとタカに、アヤメと2人で本体を攻撃し、こちらに連れてくると宣言した。
「わかったわ。こちらの準備は任せておいてね」
「2人で大丈夫なのか?・・・と聞くのも失礼だな。わかりました。イチ様と魔物を倒す準備をきっちりしておきます」
それを聞いて、ユリとレイはついて行きたいと言ったが、スザはこっちに残って欲しいと説得した。動きやすさと爆発力を考えると魔法使い2人の方がいいのだ。危険が伴う行動だが、アヤメは頬を赤く染めながら、
「やっとスザ様の力になれると思うと、アヤメはとても嬉しいです」
ユリとレイがアヤメに、しっかりね。スザ様をお守りしてね。と声をかけていた。
「じゃあ、行ってくる」
「頼んだわ」
イチは頷いたが、タカは首を傾げた。高さ6mの要塞には北に向かって下りる手段が設置されていないのだ。
スザはアヤメをお姫様だっこした。アヤメは顔を赤く染め、ユリとレイは、いいなぁ、いいなぁと声を上げていた。
突如、ドウンッ!と音を立て、スザは宙に飛び上がる。
「きゃああぁぁぁ」
アヤメの可愛い悲鳴を響かせながら、そのまま放物線を描き、壁の下、北の大地に着地した。
スザはクシナ、ミナミと別れた後、能力を少し変えていた。
選択可能能力:10/10 雷魔法、魔法威力増大、体力増加、不意打ちで即死、剣術、水魔法、構造把握、氷魔法、火魔法、風魔法
最近物を投げないので投擲を外し、火魔法と風魔法を追加したのだ。1人でクシナとミナミの攻撃を担当しようという考えだ。
スザは降ろしたアヤメと2人で手を振り、そのまま北に向かって走って行った。
黒くうごめく、北に巣くう魔物の群れに向かって走っていく小さな後ろ姿を見ながら、
「イチ様。ああ言ったものの、大丈夫なのでしょうか?」
タカは同じように2人の背を目で追う隣のイチに、不安げに声をかけた。
イチはフッと小さく笑い、
「彼らが殺されるようなら、私たちに勝ち目はないわよ」
そして、手をパンパンと叩きながら、
「さあ!イの国の英雄スザが敵を連れてくるわよ!魔法銃の準備はいい?新しい魔法大砲の準備は?」
はっぱをかけられた兵士たちが地下からものを運び出し始めた。
魔法大砲はワイバーンの魔石を使った巨大な魔法銃だ。魔石分の2つしかない。3つの角の両外の角の根元にスザが設置していた。
この準備期間の間にイチは魔法銃の数も増やしていた。もちろん弓や剣も全員装備している。レイには魔弓を渡しているので、ユリには魔法銃が支給されていた。ユリは魔法銃で攻撃しながら味方の怪我を直し、レイは弓で魔物を倒す予定だ。
「ここで私たちが負ければ、島の村も砂浜の村もいずれ魔物に飲み込まれるわ!決戦の時よ!しっかり準備を整えるわよ!」
「おう!」
要塞に呼応の声が響いた。