第99話 再会⑫
2021.8.6一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
ワイバーンに蹂躙された4人の家族、元婚約者のほとんどが死亡していた。
亡骸を川岸に並べている。ひどい傷を受けながらも生きていたのは、ユリの父、レイの兄だけだった。セイラとアヤメの家族、セイラたちの元婚約者は誰も生きていなかった。2人はミナミとユリの回復魔法により話せるまで回復していた。
「そんな、くだらない理由で?」
ユリの声が響く中、ユリの父とレイの兄は気まずそうに小さく頷いた。
会議から戻ってきた砂浜の村の村長キクから、スザたちがたったの8人で村を取り戻すことに決したと報告された。セイラの婚約者は、これは好機だと4人の家族たちに話した。
8人の中にセイラ、ユリ、アヤメ、レイがおり、村を取り戻した後、我々の影響力はとてつもなく大きくなる。さらに彼女たちについて行って共に村を奪還すれば、確実に村の実権を握ることができる。だから家族と婚約者の男たちで頃合いを見て、セイラたちに手を貸して手柄を分けてもらおうと提案してきたのだ。
砂浜の村の部隊にはイチ様から5本の魔法銃を支給されていた。会議の報告を受けた直後に男たち13人で魔法銃を持ち、砂浜の村に先行して、山の中に潜伏し戦いの趨勢を見守っていた。大勢が決した時、川近くまで下り攻撃を開始したのだ。
結果、13人中11人が死亡した。自業自得である。しかし彼らの欲望にセイラが巻き込まれた形になり、死亡した。クシナは何も言えなかった。彼らの失敗は、彼らの命で償ったのだ。否定の言葉を吐けるのは、彼らの家族や死んだセイラだけであろう。
「これからどうしますか?」
ナギが、座り込みセイラの亡骸を抱いたまま動かないスザから目を離さないまま、クシナに問いかけた。
「・・・ワイバーンの死体は食料になるので氷魔法で保存できればいいけど・・・それは後に考えることにして、死体を残して去ることはできないわね」
残っている魔物の死体は、倒れているその場でクシナが焼き尽くすことにした。問題は家族やセイラの亡骸だ。
「ユリ、アヤメ、レイ。申し訳ないけど、あなた達の家族の亡骸はここで焼こうと思う。お別れをして遺品を取って」
3人は頷き、最後のお別れをし始めた。それを見て、クシナはスザに近づいた。
「スザ。セイラとお別れをして。家族の亡骸と一緒に焼くわ」
「ダメだ!セイラをまだ幸せにしていない!」
駄々をこねるスザに、クシナはどうしようかと頭を悩ませる。
初めて仲間を失ったことで、自責の念に駆られているのだろう。そう考えると、今までが奇跡だったとしか思えない。スザが仲間を取り戻すと決めてから、スザが一方的に仲間と思っていた人たちは、今日まで誰も死んでいなかったのだ。スザが守り切れていたのだ。でもこれだけイの国の規模が大きくなれば、仲間を誰も死なないように守り切るというのは不可能だ。
スザもわかっていたと思う。でも目の前で自分を慕う人が死ぬと、頭で理解していたことなど吹き飛び、悲しさ、やりきれなさ、自分の不甲斐なさなどの感情が溢れ出て心のすべてを満たしてしまったのだろう。
家族と別れを終えたユリ、アヤメ、レイがクシナのところに来て、目を合わせて頷いた。そしてそのままスザとセイラの周りに座り、スザとセイラを抱きしめた。ユリが口を開く。
「大丈夫。セイラは幸せよ。ほら、さっきも言ったようにセイラは笑っている。それでもまだセイラを幸せにできていないって思うのなら、私たちを幸せにして。セイラの分まで幸せにして。私もアヤメもレイもクシナさんもミナミちゃんも・・・皆をスザが幸せにしてください。そうすればセイラだって満足すると思うよ」
遠くで見ていたミナミはダッと走り寄り、輪の中に入った。
「スザ様♡!セイラちゃんと一緒にみんなを幸せにして!」
クシナも輪に入る。
「そうだわ!セイラと一緒に私たちを幸せにしなさい!私たちもスザ、あなたを幸せにしてみせるわよ!」
みんながセイラとスザを囲んだまま、頷いた。
ポトリとセイラの頬に涙が落ちた。スザはそれを優しく拭う。
「本当だ。本当に笑顔だ。セイラは笑顔で旅立ったんだね」
スザの震える声に、クシナたち全員が頷いた。
「じゃあ、俺がずっと悲しい顔をするのはおかしいな・・・セイラに誓おう。俺はセイラを含め、クシナ、ミナミ、ユリ、アヤメ、レイ、そしてここにいない仲間も全員を幸せにする」
セイラをギュッと抱きしめた後、スザは顔を上げた。涙をぬぐい、一人ひとりと目を合わせた。
セイラの家族の横にセイラの上半身と下半身を並べた。お別れの祈りをした後、クシナが炎で焼き尽くす。煙は天に昇って行った。川岸に石碑を建てた。そこに骨を埋める。セイラの亡骸があった場所に、巨大な魔石が傷一つ付かず存在していた。その魔石を全員が優しくなでた後、スザは布にくるみ胸当てと体の間に入れた。
ワイバーンをさらに巨大な氷で覆い、砂浜の村を離れた。何日かは溶けずに持つだろう。ユリとレイの家族は歩けるほどに回復していた。夕方だったので、昨日の山腹に再び小屋を建て宿泊した。