第7話 イの塔の街解放作戦①
2021.8.4一部追記実施しました。
流れに変化はありません。
夜になったが、イの塔の街は明るい。魔法で光る街灯が道路に設置してあるからだ。明るいってのはいいことだともちろん思っているが、今のスザにとっては行動を制限させる厄介なものだ。
北門と南門には侵略者の監視兵がいることはわかっている。北門の方が中央広場から遠く、人数も若干少ない。南門は侵略者が入ってきた門だ。味方との連絡、合流などを考えると必ず押さえておきたいのだろう。だからまずは北門の警備兵を倒し、その後南門の兵を倒して中央広場に攻め込む方針だ。
スザは先ほど話し合った基本方針通りに道路から離れ、家々の庭や間の小道を縫いながらなるべく光の元に出ないように北門へと近づいていた。
『はい止まって』
イズの声が届く。イズの勢力範囲内では“ブック”を通して会話ができるのだ。スザは指示通り止まり、見える敵兵がどこにいるかを頭の中で思い描く。
『了解。あんたから見える監視塔の中の敵兵と門の外を見ている二人の敵以外に、門の外、右手側と左手側に巡回している兵が一人ずついるわ。あと近くの家の中で兵士が3人寝ているわ。交代要員ね』
さっき見た壁絵、スクリーンって言ってた情報と変わらない。まずは3人を暗殺しよう。スザはブックを呼び出し、3枚目を表示した。選択可能能力:5/5 気配遮断、気配感知、冷静、急所感知、不意打ちで即死 と記載されている。ふぅ・・・と一息つく。
『大丈夫よ。スザ、あんたならできる』
“冷静”を選択しているせいか、胸もドキドキしないし、至って普通だ。イズの言ったとおりの能力設定にしてよかった。
俺はできる・・・
自分に言い聞かせ、小さく頷いた後、3人の兵士が眠っている家に移動した。
予想通り、家にカギはかかっていない。イズの指示に従ってゆっくりと部屋を進む。
『そこにいるわ』
扉を開けず、ただスザは扉の中を覗くように思い描くと、なにやら3人の人影みたいなものが目の前に浮かぶ感覚を得た。まったく動く気配はない。熟睡だ。
意を決して、音をたてないように扉をゆっくりと開く。
部屋は真っ暗だ。しかしスザの目には3人の姿が白い影のように見えていた。一番手前の影に近づくと、赤い光のようなものが現れた。急所感知でわかる急所なのだろう。
腰に装備していた短刀を抜き、赤い光に当てる。さあ力を入れようとしたとき、
『声が出るわ。口をふさいでグッと短刀に力を入れなさい』
一瞬ドキッとしたが、心臓はすぐに冷静さを取り戻した。心の中で了解と返事をして、一気に力を入れながら口をふさいだ。
小さく「くっ」と声は出たが、それ以上はなく、体から力がなくなる。他の二人はまだ夢の中だ。
『大丈夫?』
今のところ、何も感じない。“冷静”の能力を外したら、何か来るものがあるのかもしれないが。続けてやると返事を頭の中で返し、次に近い人影へと移動した。
あとは一緒だった。
残りの二人も最初と同じだった。3人とも夢見の途中で死んでいった。罪悪感も覚えない。ただ何度か胸の奥が一瞬だけ暖かくなるのを感じた。イズが言っていた等級が上がったお知らせみたいなものなのだろう。
『交代の人間が一人来るわ。やれる?』
大丈夫と答え、扉の裏に隠れた。
『今、家に入った』
スザにもわかった。足音が近づき、扉を開けた。手にカンテラでも持っているのだろう。明かりが一番手前の体をほんのりと明るくした。カンテラを扉そばの机に置き、近くの仲間を起こそうと近づき腕を伸ばす。赤い光が背中に灯るのがスザの目に入った。
「ガッ・・」
背後から一気に心臓を貫かれた敵兵はうめき声を上げ、そのままベッドの死体の上に重なった。二度、三度と胸の奥が熱くなる。強い敵だったのがわかった。
『スザ、その家から出て。帰ってこないことを訝しんで兵士たちが現れるかもしれない』
了解と答え、家の裏手から外に出た。門についている三人と門の左側を巡回している一人はまだ監視活動を継続しているようだ。
暗闇の中、ブックを開く。
等級:10 補正:20 になっていた。基礎値も等級1の時の約3~5倍の値となっていた。次にめくると、職業:暗殺者(+1)となっていた。補正値が上がったのは、暗殺者の等級が上がったためだろう。3枚目にめくると、能力:5/6となっていた。一つ追加できる。
『集団までは言わないけど、2人くらい同時に相手をできるようにしたいわね』
それって暗殺者じゃないでしょ・・・
『そうよねぇ。暗殺者を選んだの間違えた?でも暗殺者じゃないとこんな悩みにたどり着くことはできなかったから、暗殺者で正解よ、正解』
ハイ正解だと思います。
『なんか投げやりに聞こえるけど、まあいいわ。追加する能力は・・・』
遠くから倒して、慌てる敵を翻弄しながら近づき背後から暗殺なんてのがやれそうな感じだと・・・
『なるほど。わざわざ接近戦で多数を相手にする必要はないわね。じゃあ投擲、狙撃で遠距離攻撃。剣で斬撃を飛ばすか』
剣で斬撃って、どうやってやる?無理でしょ・・・
『じゃあ得意な短剣を使いますか。短剣を投げて遠くから急所をぶっ刺し、移動しながら人数を減らして残った人間は接近戦か短剣投げて暗殺ね。どう?』
ということで、投擲を追加した。腰の短剣を投げようと構え、近くの木を睨むと、なんかこの辺には当てられそうって範囲がぼんやりとわかった。
『部屋に戻って、兵士たちから短剣を奪いなさい。一人一本は必ず持っているわ』
言われたように部屋に戻り、短剣を4本手に入れ、カンテラの火を消して家を離れた。そのまま門の左手側を巡回している兵士へと近づく。
ぼんやりとした白い人影がゆっくりと門から離れるように移動していた。近くを通り過ぎたところで、柵へと近づく。背も高くない木の柵だから簡単に乗り越えられた。
ゆっくりと背後から近づく。再び赤い光が背中に灯ったとき、一気に貫いて兵士は絶命した。また等級が上がったようだ。
短剣を回収し、再び柵の内側へと戻って門へと移動した。
監視兵は櫓の上で外を注視している。当たり前か。街は制圧したので、内側の敵は存在しないのだ。
『チャンスよね』
コクリと小さく頷き、奪った短剣を振りかぶったまま近づく。狙うはむき出しの首。暗闇を選びゆっくりと移動する。5mほどの距離で当てられそうな感じがした。
行くよ・・・
風切り音がなったと思った時には、すでに監視兵の首に短剣が突き刺さっていた。
力を失った体は、柵を超え櫓から転げ落ち地面に激突した。
「なんだ!?」
門の横にいた二人はその音に驚き、落ちた監視兵に駆け寄った。一人が抱き起そうと身をかがめる。ひっくり返しながら、
「大丈夫か・・首に短剣が・・」
最後まで言えず、自分の首にも短剣が突き刺さる。もう一人の兵士がそれに驚き、短剣が飛んできた方向を向いた時には、自分の胸が短剣に貫かれていた。
「ガッ・・・子供・・・」
血を吐き、短剣を抜いたと同時に事切れ、地面にどうっと倒れ伏した。
「・・・子供扱いするな」
短剣の血糊を拭い、鞘に納め、短剣を回収した後、予定通りに反対側の南門に向かった。
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