終わりと始まり
それから1時間近く経つが、警察がやってくる気配はない。
アダムは我慢できず、ニーナに言った。
「全然来ないじゃないか。さっさと逃げるべきだ。」
しかしニーナは、その意見を否定し続けた。
アダムの意見は決してダメなことではなかったどころか、ジョシュやエドワードも、内心、そのほうがいいと思っていた。
しかし、前を向いて震えているベティーだったが、緊張が収まったのか、震えが止まったあとに叫びながらこう言った。
「もういい。」
その声は、喫茶店の外にも漏れるくらいの大声だった。
すると、ドアの向こう側からノック音が聴こえた。
その瞬間エドワードとアダムは、やっと警察が来たと思って安心していた。
ニーナはドアのほうに向かったが、ジョシュは何かイヤな予感を感じていたのか、ニーナを止めた。
「待て。本当に警察か。車のエンジン音が聴こえなかったぞ。」
もし警察が来たのなら、パトカーで来るはずだと彼は思っていた。
エドワードとアダムは安心を取り戻したのもあってか、冷静になることができた。
そのとき彼らの頭の中には、ある疑惑が浮かび上がった。
ニーナは何故、警察に電話する際わざわざ”喫茶店から出た“のか。
彼女は本当に、警察に電話したのだろうか。
冷静になったおかげで彼らの考えは、さらに深まった。
何故、ベティーは一本道の端っこにいたのか。
何故、山奥の喫茶店が今も経営されているのか。
何故、ニーナの料理が不味かったり、包丁の使い方が下手だったのか。
そして、何故、山奥の喫茶店が心霊スポットと噂されているのか。
彼らは疑問を残しながらも、犯人はベティーとニーナだと確信した。
ベティーとニーナは、もう仕方ないかのような顔をした。
ニーナはキッチンに置いたままの包丁を持って、彼らに刃先を向けた。
刃先を向けられている間、彼らは震えて一歩も動けなかった。
逆にニーナは、包丁を別の意味で使い慣れているのか、刃先が震えていなかった。
刃先を彼らに向けたまま、彼女はドアのほうへと向かった。
ドアの鍵を開けた瞬間、ドアはその何かが開けた。
ドアの先にいたのは、髪が長く、口に血がついている老婆だった。
ベティーは老婆にこう言った。
「おばあちゃん。こいつらをさっさと殺そう。」
この老婆の正体は、ベティーとニーナの祖母だった。
そして、ベティーとニーナは姉妹であることが判明した。
老婆は血のついたレンガを持っていた。
その血は、ジョニーの頭を殴った際に付いた血だった。
老婆の口に付いている血も、ジョニーの血だった。
老婆は彼らにこう言った。
「もうそろそろだ。」
その瞬間、老婆は彼らを襲おうとレンガで殴りかかり、ニーナは包丁で襲い掛かってきた。
ジョシュはとっさに、喫茶店に入る前にジャケットの中に隠し持っていた拳銃を取り出し、老婆に向かって発砲した。
弾は運よく頭に命中して即死だった。
次に、ニーナのほうへ銃口を向けようとしたとき、すでに手遅れだった。
既にアダムは刺されて倒れていた。
ニーナはこの光景を見たとき、さっきのように震えていた。
エドワードはベティーに質問を投げかけた。
「お前らは何が目的なんだ。」
ニーナと祖母が殺されて絶望していたのか、あっさりと目的を言った。
「食べないと生きていけないの。人間を。」
彼女たちは人間を食料とする”人食い人種“だった。
今までの彼女たちの行動は、全て”計画“だったとジョシュたちは理解した。
襲う気配が全くないベティーだが、ジョシュはベティーに銃口を向けてこう言った。
「人を食べる奴らを生かしてたら、この先も人が死んでいく。」
こう言い放ち、銃弾をベティーの頭に放った。
喫茶店の中で、死体が四つできた。
老婆と、ニーナと、ベティーと、アダム。
なぜ、この古い喫茶店を訪れた人が行方不明になる事件が起きたのか謎が解けたジョシュは、心霊スポットで起きたことを記録するため、再びカメラを手に持った。
エドワードはジョシュに言った。
「ニーナは警察に通報した”フリ“をしていたんだな。俺が今通報する。ただの一本道だから確実に来るはずだ。」
そういって彼は自分の携帯で通報することにした。
運よく電波が通っていたようだ。
ホラー映画のよくある展開のように、電波が通ってないという展開ではなかった。
老婆の死体を撮り、ニーナの死体を撮って、ベティーの死体を撮ったあと、彼はジョニーの死体を撮りに行くことにした。
窓の向こう側に写っていたところにいるだろうと予想付いていた。
彼は喫茶店から出る前に、エドワードに言い放った。
「もしもジョニーの死体がバラバラだったら、老婆の死体解剖を求めよう。中にまだ残っているかも。」
ジョシュはジョニーの死体を探すため、近くの森の中に入った。
入った瞬間、地面一面に異様な光景が。
地面一面に、数え切れないほどの人骨と、たくさんの車があった。
ジョシュは青ざめたと同時に、地面一面の写真を撮った。
しばらく散策していると、ジョニーと思わしき死体を発見した。
ハエがたかって、片腕が食いちぎられていた。
きっと老婆が食べたのだろう。
その写真を撮って、彼は喫茶店へと戻った。
喫茶店で警察が来るのを待っているころ、エドワードはジョシュにある疑問を投げかけた。
「そもそも、なぜ心霊スポットという噂が広がったのだろうか。俺らが生まれる前に、この噂はあった。もしも、人食い人種がこの噂を”作った“としたら。」
難しい話だが、ジョシュは頭の中で整理した。
噂というのは、ある人物から広めるものだ。
広めることによって、好奇心から古い喫茶店に訪れた人々を食らうことができるということ。
昔、その噂を広めた人物が老婆であれば、老婆は、昔は町に住んでいたということになる。
孫であるニーナとベティーも、人食い人種であることから、一家は人食い人種ということだ。
だとしたら、ひとつ忘れていた存在がいる。
孫がいるなら、その母親。
つまり、老婆の子供がいるはずだと。
老婆たちと一緒じゃないとするなら、どこにいるのか。
ジョシュは頭の中で時間をさかのぼり、ひたすら思い出そうとした。
特に思い出せたのは、ベティーのセリフだった。
なぜなら、彼女はあまり喋っていなかったからだ。
彼女と最初に遭遇したところまであっさりさかのぼった。
ジョシュは、彼女が言った自己紹介を思い出した。
『あたしはベティーっていうの。喫茶店に訪れたかったけど、自転車が壊れちゃって。あなたたちもどうせ喫茶店に訪れに来たんでしょ。母さんは町で一人暮らししているからずっと暇なのよ。』
『母さんは町で一人暮らししているからずっと暇なのよ。』
人食い人種の一家は全滅していなかったどころか、運悪く、残りのひとりは町で一人暮らしをしていた。
彼女はどのようにして生きているのか、想像しただけでゾッとした。
しばらくして、パトカーと救急車が数台やってきた。
死体たちは救急車に運ばれ、警察はジョシュとエドワードに事情聴取をした。
ふたりは、老婆の一家を人食い人種であると伝えたが、馬鹿馬鹿しく思われた。
しかし、ジョシュが警察にこのようなことを言った瞬間、警察は冷や汗をかいた。
「じゃあ、ババアの腹の中を見てみろ。ジョニーの片腕の肉がまだ残ってるぜ。」
しばらくして、パトカーと救急車は町へと戻った。
その後ジョシュは、頭の中で整理したことをエドワードに伝え、人食い人種の一家の残りひとり、老婆の子供が今も、町で一人暮らしをしている可能性が高いと伝えた。
そして、ジョシュは自分の車に乗った。
エドワードはエドワードで運転してきた車に乗った。
町に人食い人種が生き残っているという恐怖を胸に、町へと去っていった。