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五話

 アレクの帰宅は夜中であった為に直葉は既に就寝していた。行きでは一日半かかったが、体力を温存しておく必要が無くなった為に気力を振り絞って一日で走り抜けてきた。


 臭いを消す為に一日一回は川の水を使って水浴びをしたが、それでも戦闘をこなし長距離を移動してきたアレクはさぞ臭うことだろう。


 これが狩りをするなら日が暮れるまでの間の距離でしか基本的に狩りをする事はないので消臭草を使って臭いに気を使っただろう。


 獲物となる動物は臭いに敏感であり、あえて自分の存在を報せ戦闘を避ける必要がなければ察知されないためにも体臭には気を使うのである。


 春から秋までであればその辺の草でも臭いを誤魔化すために使うことはある。縄張りを示す為に木を傷付け樹液の臭いをさせる肉食獣もいるが獣とて頻繁に川で臭いを落とすために水浴びをしている。


 本来であれば急変していない限りは体を清め就寝するべきである。


 直葉(リーファ)も体力を回復させるために十分な食事と休息が必要なのだから。そして聖竜と図らずとも交流してしまったアレクは竜好きと疲労もあってハイテンションである。


 解決手段を手に入れても手遅れであれば意味が無いし往復でかかる三日も病人にとっては悠長に待たせることの出来る期間でないことは確かであったが、二十五歳とこの世界では子が生まれる年齢では遅すぎる時に出来たリーファが可愛くて仕方が無かったのだ。


 農民の子は早ければ十五で結婚し子供が生まれる。二十歳になっても結婚していなければ行き遅れとして後ろ指を指されることもあるくらいだ。


 五歳を過ぎた辺りから兄弟の面倒を見つつ農作業を補佐する仕事につく。子供だからと言って遊ばせておく余裕のある農家は少ない。


 聖竜王国の税制は人頭税に農民なら畑の広さに対しての税をお金で納める必要がある。商人であれば人頭税と売上高に対する課税である。


 畑の広さで決まった量の収穫があると想定して税が定められている為に豊作であれば農家は税を納めるのに多少の余裕が出来るが凶作になれば子を売ったお金で税を支払わなくてはならなくなる。


 しかも豊作であれば単価あたりの金額は低くなる。需要と供給の関係を考えれば分かるだろうが欲しい人に対して商品が過剰にあれば値崩れするのだ。


 そして凶作であれば作物自体の価格は上がるが手元に売る作物がないために納める税金を支払うことが出来ないのだ。良心的な貴族であれば物納による徴収を認めるし、凶作の場合は一部免除するが全ての貴族が良心的であると思うのは幻想である。


 貴族も王国政府に対して領地からの税収の一部を納付する必要がある。それは領地を持つ貴族に対する義務であり、王都に住み土地を持たない貴族は法衣貴族として国に貢献する義務があるのだ。


 聖竜王国では良心的な貴族であれば五公五民。悪徳貴族であれば七公三民である。王国政府が物納を認めていないのは作物はその土地で必要になるものであり、王都周辺でもない限り荷馬車に積載して移動させるのは一手間だからだ。


 王家としても不作による税の減免を貴族に認めている。貴族が独自に開拓した土地に関しても所有者が定まっていない土地の場合、実情に合わせて三年~五年の範囲で免税を認めているのだ。


 国としても土地は余らせておいて良いことなど何一つない。人の手が入っていないということは魔物の領域であることを示し、聖竜王国に限っていえば寒冷地にあたる北部の竜峰くらいで騎士爵であっても土地持ちでない武官であることも多いのである。


 聖竜王国では騎士と言っても大まかに二種存在している。一つは国王によって騎士爵に任命された王国騎士と貴族の私兵である陪臣騎士である。


 俸禄を与えられ準貴族として特権を与えられた王国騎士も花形である竜騎士と近衛騎士を王都騎士、そして地方の重要拠点防衛のために派遣される騎士を地方騎士と呼んで分類している。


 陪臣騎士は領地防衛の為に爵位によって定められた規模まで私兵をもつ事が許され功績をあげた平民や分家の当主を貴族が任命している。


 暗黙の了解であるが爵位によって持てる貴族の私兵の数を制限しているのは反乱を防ぐためである。領主軍と言われる私兵達を束ねるのはその貴族に長年仕えてきた陪臣の家のもの達である。


 陪臣騎士の数に制限は無いが軍は基本的に金食い虫であり、維持できる規模もおのずと決まってしまうのだ。


 国境を警備し、いざと言う時に足止めする必要のある侯爵相当の辺境伯と王都付近に広大な土地を持つ公爵とでは役割が異なる為に辺境伯の方が優遇されるが、竜騎士の数は制限されている。


 竜騎士の最大の特徴は空中からの一方的な攻撃にもあるが馬や一部騎乗用の調教された魔物よりも短時間で広範囲に移動できる瞬発力があることだ。


 行軍の際には一番遅い荷馬車に合わすことになるだろうがブレス攻撃は強力である反面、燃費が悪いことが欠点となるだろう。


 竜騎士に性別は関係ないとはいえ殆どが成人男性、しかも装備をした重しをつけながら飛ばなくてはならない。竜騎士が軽装を好むのも負担をかけないためである。


 アレクは聖竜に渡された卵をリーファに握らせる。卵を孵化させた経験はないが孵るまでは魔力を食んで成長するはずであった。


 卵を産んで落ち着いてきた竜舎に将来の竜騎士候補が泊まって卵に魔力を与え続けるのも産卵期の風物詩である。


 公開されることはないが貴族の子弟が竜騎士になるのは家の権威を示すのと同時に長男以外の出世先として近衛騎士と共に人気があるからであった。


 平民出身の竜騎士からしてみればこの時期は貴族の我儘に付き合わされながら他の業務をこなさなくてはならない面倒くさい時期ではあるが。


 ----


 自分が何時、生を受けたのかも分からない。卵の中にある竜は親竜の魔力がなければ成長できない。中には死んでしまう個体もあるがそれは脆弱なワイバーンの話であって聖竜の子たる自分が死ぬとは思っていない。


 属性竜は毎年、卵を産む個体もいれば託すべき主人を見つけた場合にのみ産む個体もいる。


 アレクが出会った個体は後者であるが永きを生き竜の中でも抜きでた力を持つ龍達は人の世に積極的に関わろうとはしないのだ。


 初代建国王とその子孫である王族。竜の命が人より長いとはいえ竜も世代交代をする。


 竜騎士と竜の役割は王国守護であり戦争時には矛として攻撃する役割があるためにどちらかが死亡することなど有り得ることだ。


 竜騎士が生き残った場合には運が良ければ竜舎で生活している竜と契約することはできるが駄目なら退団するか王国騎士団へと移籍するしかない。


 卵から育てるにしても少なくとも人を乗せて飛べるようになるまでは五年の年月がかかる。


 それを待てる財力があれば良いが竜紋を得て竜騎士になった平民では退団して市井に混じって生活することを余儀なくされる場合が多いのだ。


 その場合は王国騎士としての特権を返上することになるために身分上は平民に分類されることになる。給料を堅実に貯めることの出来る生活をしていれば良いが準貴族としてやむを得ない出費もある。

 竜の食事に補助は出るが全てを賄えるほどでなく休日に野外訓練と称して魔物を狩る竜騎士もいる。


 戦力の増強になるからと目を瞑るのが暗黙の了解であるが貴族と準貴族の中には序列が出来ているために雑用を押し付ける者も多いのだ。


 テイマーの多くを竜舎の管理人として王国は雇い入れはいるが本来は契約において竜騎士が竜の面倒を見るべきであり好ましいものではない。


 連携にも支障が出るし鍛えることによって筋肉で重くなった竜騎士を竜は好む傾向にあるが贅肉によって重くなった主人を背に乗せて戦いたがる竜はほとんど居ないのだ。


 貴族であるからに贅沢は出来るために竜も堕落し戦力にならない御荷物が増えてきているが真っ向から指摘できる準貴族の竜騎士はいない。


 実力がなくても竜騎士になれてしまうのが王国竜騎士団の欠点である。実力のある竜騎士団長もいるが殆どがお飾りである。


 子爵家や男爵家と言った王国に認められた元準貴族の家系がなる竜騎士副団長がいなければ財政に負担でしかないのが竜騎士団の実態でもある。


 慣習として準貴族はなれても隊長までというのが悪しきものであるが変革する理由になるほどの傑物が現れないというのも解決に至らない原因であった。


 そして名もなき竜は自身を護る盾であると同時に外界への接触を拒んできた殻を通じて美味しそうな魔力を感じた。


 休眠状態となっていた竜は酷く腹が減っていた。この餓えを満たす為には契約をして良いと思えるくらいには、そして原始の記憶を呼び覚まそうとする声が聞こえた気もするが気のせいだろう。


 魔法師が魔法を放出する魔力孔は手のひらが一番多いとされている。イメージがしやすいとか諸説あるが手のひらを相手に向ける行為は人によっては敵対行動ともとれる危険な意味を持つ。


 そして直葉が魔力多寡症によって苦しんでいたのは暴走した魔力を体外に出す魔力孔がなかったからである。


 この時、名もなき竜と直葉の利害は完全に一致したと言える。直葉は就寝している為に意識はない。名もなき竜も衰弱しているとはいえ属性竜である。


 そして人の子と竜の子の対等な契約は成立してしまったのである。属性竜は創造神が作ったとされる原始龍の流れを汲むものだとされている。


 そして属性竜との契約は神が認めるに足る竜との絆である。直葉の左手には竜紋と呼ばれる契約紋が刻まれたが本質は隠されたままであった。


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 地球の神は異世界に送り込んだ四つの魂の事を忘れかけていた。最初は熱心に観察していたが地球世界と異世界の時間の流れは異なり、寿命という概念がない神と言えどその魂と直接的な繋がりがある訳では無いし世界を管理するというのは大変なことなのだ。


 部下たちに世界の管理を任せぱなしにする創造神もいるが、地球世界は他の世界と比べても発展した世界であった。


 地球を創造したのは遥か昔のことであり、人類が生態系のトップとして好き勝手にすることで環境破壊が進みとある国の環境大臣が環境保護の為にレジ袋の有料化を決めたり政治家のトップが代わったりしているが駄目ならやり直せば良いだけである。


 見ている分には滑稽で楽しませてくれるのだが、 繰り返されてきた歴史の中でわざわざ作り直すのが面倒だったというのが真実である。


 創造神として後輩にあたるミッドガルドやその他の異世界神が地球世界を参考にしたいと見学にくるのは地球神の自尊心を満足させるものであり、管理している魂をその世界に送り込むかはその時の状況によるとしか言えないのだが。


 地球世界の人類が想像した世界も他の神が管理する世界に酷似したものは幾らでもあった。謙虚であり自身を信仰してくれる存在の多い日本は良く世界を覗くときについでに観察していた。

 漫画やアニメと言った文化は好物であり、地球神が他の世界に魂を送るようになったのもとある小説サイトで異世界転生ものというのが流行っているのを知ったからである。


 地球神は俺TUEEEE物はあまり好きでは無かったが底辺の者が真の実力に目覚めて復讐する話は割と好きであった。


 悪役令嬢ものも婚約破棄からのざまぁも大好物である。地球神はもう少し年月が経たないと四人の物語は始まらないとそう思った。


 同じ時期に大量の魂を送るのは世界のバランスを崩す行為のために地球神はクラス転移ものは物語としてなら楽しめるが現実世界の調整に頭を悩ませる神の気持ちを考えろというのが先ず来てしまうために楽しめないのだ。


 そして神はいい加減であることも多い為に動きがあるまではまた記憶の彼方へと追いやられるのであった。

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