7曲目*弟
ぼくのお腹の中には、生まれたときから「弟」がいる。
ぼくと一緒に保育園にも行くし、電車のオモチャでも一緒に遊ぶ。
「弟」は寂しがり屋だから、寝るときはぼくのお腹を「トントン」してあげるんだ。
こないだ、ぼくが4歳の誕生日を迎えたときに「弟」も一緒にお祝いをした。
まわりのお友だちにも弟がいるけれど、ぼくの「弟」とはちょっと違う。
何度か、お母さんに話したけど答えてくれなかった。
きっと、ぼくの「弟」は特別だから皆に秘密にしなくちゃいけないんだと思う。
なんだか嬉しかった。
ある日、ぼくだけ長野のおじいちゃんちに行くことになった。
おじいちゃんもおばあちゃんも大好きだったから、すごく嬉しかった。
毎日、おじいちゃんの畑を手伝ったり、おばあちゃんと絵を描いたりした。
伯父さんにテレビゲームを教えてもらったり、従兄弟のお兄ちゃんにサッカーをして遊んでもらった。
カエルを捕まえて、星空を見て、毎日がとても楽しかった。
だから、
ぼくのお腹の中から「弟」がいなくなったことに気が付かなかったんだ。
呼んでも返事をしなかった。
すごく、すごくびっくりした。
ぼくは、生まれてはじめて、一人ぼっちになった。
どのくらい寝ただろう。
お父さんがぼくを迎えにやって来た。
お母さんが妹を産んだのだ。
終