6曲目*リモート
「…でさ、付き合ったのが、俺の好きな本をたまたま読んでて話しかけたのがキッカケだったんだよ」
若い男がパソコン画面に話しかける。
声は弾み、いかにも若さが溢れ出さんばかりだ。
「ああ」とリモート画面から年配の男の声がし、「たしか…そうだったよなあ」と嬉しそうに言った。
「だってさ、会社の昼休みに今時『坊ちゃん』読んで泣いてるなんていないよな!絶対この人いいヒトだ!って思ったからね」
若い男は楽しげだ。
「ラスト部分めちゃくちゃ泣けるからな」
「わかってる!」
「伊達に歳とってないよ」
年配の男はコーヒーをすすった。
「……まあ、部署が一緒だから喧嘩すると地獄だけど」
若い男が若干小さくなる。
「キツいよな」
年配の男は画面の向こうで「うんうん」と相づちを打つ。
「そうなんだよ…行き場がない…」
「まあ、楽しそうでなにより」
「おかげさまで」
二人は顔を見合わせるなり、声高らかに笑い出した。
笑い声が止むと若い男が口を開いた。
「今日は話せて良かった」
年配の男も、それに応える。
「俺も」
若い男は席を立った。
「そろそろ、行くわ」
「しっかりな」
「うん、ありがとう」
若い男はジャケットを羽織り、パソコン画面に見えるように花束と掌に乗るくらいの箱を見せた。
年配の男は画面の奥で満面の笑みを浮かべた。
「未来がわかったら、つまらないだろうから皆まで言わないけど。『アラフォーのお前』は今、すっげー幸せだから自信持って言って来い」
終