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ブレーク*タイム(短編集)  作者: 関 かもく
3/8

3曲目*傘

これから、3曲目、4曲、5曲は違う話ですがストーリーは繋がっているので読んで下されば嬉しいです。


部活帰りに運悪く雨に振られた。


部室のロッカーに置きっぱなしだった、ボロい透明のビニール傘は少し錆び付いていていたが、白い取手に付いたあるものに目が止まった。


盗難防止で付けた白いドットの赤玉が二つ付いたヘアゴム。


友達とお揃いで買ったものの、自分の髪にくくるには似合わなく持て余したものだから傘に付けたんだった。

そんなことも、すっかり忘れていた。


まるで苺玉みたいな、それを握ったまま暗い雨の中を歩いた。


家路に近付くと、見慣れたコンビニが見えてくる。


大した用もないが、必ずここに寄るのが私のルーティンだ。

店内を一回りし、たまたま欲しいミルクティーのパックを見つけた。レジで財布を取り出そうとリュックを漁ったら、奥底から折り畳み傘が出てきた。


いつも母さんが、『晴れていても入れておきなさい』と口うるさく言っていたのを思い出す。部活用の特大リュックに、この計量傘が忍ばされていたとは全く気が付かなかった。とりあえず、サイドポケットに突っ込んでおいた。


会計を済まして出入り口に出ると、小さい庇にもかかわらず人が立っていた。


それは男の子で、私より少しだけ背が高いくらい。

どこの制服か、わからない。白シャツでズボンは紺だし、どこにでもありそうだ。

傘がないのか、ただ真っ暗な空を見上げていた。


「傘、持ってないんですか?」

いつもなら、きっと声を掛けられなかっただろう。

でも今日は不思議。


「あ、はい…持ってないです」

その人は知らない子だったけど、初めて会う気がしなかった。

友達の友達だったかな。


「これ、良かったら使ってください」

ビニール傘を差し出した。自分は折り畳みがあるし。


「でも」

彼は申し訳ない、と手を出さない。


「私、もう一つ持ってますから」

出した以上は引っ込められない。

リュックのサイドポケットから覗く傘を指さした。

断られるの恥ずかしいし、無理矢理にも押し付けなきゃ。


男の子は、私の気迫に負けたのか静かに受け取った。

「…ありがとう。必ず、お返します」


「大丈夫です、返さなくても!」

思わず、ブンブンと手を振ってしまった。


「…いえ、きっと返します」

「本当!いいです!それ本当ボロいんで!」


すると、彼は意外なことを言った。



『貴女が、会いに来てくれると思うので。そのときに』


彼が頭をかきながら微笑んだ。



私は、思わずその場から駆け出してしまった。


人の親切を逆手にとって、ナンパに使うとか最低。

どこかで会ったことあるかもなんて、親しみ感じて私も大概おめでたい。


家の前まで来たとき大分濡れていたけど、風呂に入って寝てしまえばいいと自宅のドアを開けた。



「あんた!何度、携帯鳴らしたと思ってんの!早く車乗って!」




母さんの怒鳴り声が響いた。




おじいちゃんとは小学生の頃から会っていない。

施設に入ったのも、その頃くらいだったと思う。


私の受験や引っ越し、歳の離れた弟が産まれたり理由はいろいろだ。

数年前から、足が不自由だったことさえ知らなかった。



ベッドで眠る顔を見せてもらった。

私が知っているおじいちゃんより、ずっと歳をとっていたけど、安らかでちょっと笑っているように見えた。



そのとき、カタリと音を立てて何かがこちらに倒れてきた。



あの、傘だった。



死ぬ前に、一目『会いたい人に会いに行く』。

そのときの姿を、一番思い入れがある年齢に変える人もいるという。



そんなことを聞いたのは、大人になってずっと後になってからだった。






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