3.明かされ始めた友の死
「なんだこれ」
そう口にした僕の声は震え、目は見開き閉じない。そこに表示されているのはおびただしいほどの数の脅しや悪口だった。死ねというメッセージは散見されるが、それよりも家を燃やす、登下校中に後ろから刺すなど殺すという意思を表現するメッセージが多い。画面をスクロールするとどうやら3か月以上前からこのやり取りは行われている。日を遡るほどに死ねという自殺を促すメッセージが多く、最近になるほど殺害するメッセージが多くなっていることが分かる。僕はこの時、確信した。継続して京に自殺を求めた何者かは京が自殺しないことを疎ましく思っていた。そうしてどんどん言葉をエスカレートしたが、京が一向に自殺しないことを気に食わず、自ら実行に移したのと。
(しかしなぜ?)
京はクラスの中でも明るいムードメーカーであり、大抵の場合は憎まれにくいキャラクターのはずだ。それにターゲットにするには京は目立ちすぎるだろうから教師がおそらくいじめを早期発見できていたはずだ。京を殺した何者かが教師を丸め込むほどの権力者、若しくは何らかの関係を持つ者だというのだろうか。それとも教師が発見できないほど巧妙な手口だったというのか。
(やはり動機が分からない。)
僕の中で疑問が解決されないままだったが、メッセージをずっと巻き戻してクラスのグループチャットを見ているとある日だけ荒れているのが分かった。それ以前は削除されているのか分からなかったが、京があるメッセージを送っていたようだ。そのメッセージは画面上から削除されているが、そのメッセージに対する反応が随分と過激に感じられる内容になっている。そしてもう1つ分かることがあった。それはグループチャットが荒れた日を境に個人チャットを通じて脅しが始まっていることだ。
(この日に何かがあったに違いない。でもどうすれば何があったのかを突き止められるんだろう。僕はこのグループチャットに参加していない以上、僕の携帯からでは何があったかを知ることはできない。)
実のところ僕はグループチャットがばかばかしいと思っていたため、クラスのグループチャットの存在は知っていたが参加してはいなかったのだ。しかしそのせいで京への手がかりが1つ失われている。だが京は教室で直接的にいじめられていたわけではない。それは僕が一番わかっている。僕は京しか話す人物がいなかったから、京にだけ注意を払っておけばよかった。だから僕はあのクラスの中で一番京のことを見ていたはずだ。もっとも、僕が見ていたのは京の行動だけだったようだ。もし本当に僕が京のことを見ていたならば、こんなことにはならなかっただろうし、京の性格も分かっていたはずなのだから。それはさておき、京は見えないいじめを受けていた。そしておそらく見て見ぬふりをした人間がいるはずだ。
(クラスカーストの頂点がいじめを実行していたと仮定すると、いじめていた奴らの中に他のクラスメイトが外部にいじめを漏らさないように監視する役割を持つ人物がいたはずだ。だからこそ僕がすべきは監視者を暴き出し、監視者の警戒が最も弱い人物を特定することだろう。そしてその人物から京に関する情報を聞き出し、真相を探る。)
ただ、僕は今までクラスにおいては空気だった。だからこそ僕には一切の火の粉が飛んでこなかったわけだが、僕が動くことによってきっと彼らの注目を集めることになるだろう。できる限り短期間で情報を収集しなければ、僕にいじめのターゲットが移るかもしれない。慎重な行動が求められていることを僕は自覚した。
「ありがとうございました。僕は必ず京に何が起こったのか突き止めます。そして犯人に後悔させてやります。」
そう言い、僕は京の家を後にした。
昨日は京の家に行っていたため、学校には行かなかった。そして自宅に着くと、親に何をしていたのか1時間怒られた。おそらく学校から連絡が来ていたのだろう。
教室に入り、32席あった机は31席になっていた。京の席は窓際の前から3列目だったが、その場所は空けられたまま詰められていなかった。
しかし監視役を見つけることは簡単ではなかった。僕は今まで一切他人と話してこなかった。そんな僕が話しかけられる人間はごくわずかだった。そして今までに話してこなかった人間と会話するということは不思議がられることを避けられなかった。そうして静かに息を殺して探っていくうちに3日経過してしまった。僕はこのままでは第一歩すらまともに踏み出せないような気がして、苛立ち始めた。
苛立ちを隠しながら、トイレに向かう。その途中で僕は思わぬヒントを得るのであった。
明日はついに主人公が京の死因を特定します。彼がどんな反応をして、何を考えるのか。それはお楽しみにしてください。