【勇者になってくれ】
豪邸に来て、異世界に来て、3日。さっそく、トウマのもとに、勇者になってくれと頼みに来るものがいた。
004
「頼む!勇者になってくれ!でないとこの世界が、終末を迎えてしまう!」
そう、ノコノコと訪ねてきたのはこの国の将軍様だった。
「そうは言っても、俺強くないですし。役に立てる気がしないんですが。」
「いてくださるだけでもいいのです!いてくださるだけで、皆の士気は上がります!どうか!お願いします!」
この豪華な屋敷の部屋中に響き渡る声で、土下座なんてされたら、何て答えれば良い?将軍様の期待を裏切った上に、お願いまでも聞き届けてやらない俺は、どうすれば良いんだ?
「将軍様。もうしばらく考えさしていたたけないでしょうか?」
に、ニヒル!いつの間に俺の書斎に入ってきたんだ?助け船を出してくれるのはありがたいんだが、まだ会って三日もたっていないんだぞ?勝手に入ってくるなんて良くできるな。怖いわ。
「ニヒル様。そうですか、まだ時間はあります。良い返答をお待ちしておりますぞ。勇者殿!」
「俺は、勇者じゃない!」
「あ、これは失礼。トウマ殿。それでは。」
ガチャン。
やっぱ、戸も綺麗だよな。俺んちじゃ考えられないよ。貧乏だからさ、月のお小遣いが、この歳にして500円だからな!
「トウマ、本当に勇者になるつもりはないの?」
そ、そんな目で俺をみるな。まるで俺が何か仕出かしたみたいじゃないか。
「お、俺は、小説が書きたいんだよ……書きたかったんだよ。」
異世界にいってみたいとは思ったことがある。でも、本当に異世界に来て勇者と言う称号を背負って生きていきたいとは思ったことがない。勇者になるために召喚されて、期待されて、二次元にいたかっこいいと思える勇者は、こんなにも背負っているものが大きいと思ったことがなかった。ま、だからかっこいいと思えたのかもしれないけど。俺は、そんな心の広い奴じゃない。他のやつを助けられるほど強くもない。
「そう、ですか。でも、トウマは十分強いと思うよ。そうやって、自分の夢を語れるんだから。」
「この世界の人は、自分の夢を語らないのか?」
「語れる人なんて、こんな一握りよ!私ですら語れないわ。もう、運命も決められちゃって、、、どうしようもないの。でも、トウマとで良かったわ!」
なんの話をしているのかさっぱり分からん。だが、夢って、尊いものなんだな。この世界にとっては。
「ニヒル。ありがとう。また、考え直してみるよ。」
「そう!良かったわ!じゃあ。」
ガチャン
ニヒルの笑顔は、良い薬だな。今日の緊張や疲れが飛んでいっちゃうくらいだよ。そのくらいの輝き。
ホントに俺はどうしたら良いんだか。小説も書きたいし、勇者も…う~ん。なりたい訳じゃないけど、皆の期待を裏切るのもなぁ。
『じゃあさ、両方やるってのはどう?』
あぁ!その手があったか!俺ってとことん頭が固いんだな。そんな簡単なことに気がつかないなんて。
『せっかくヒントあげたのに、お礼は無しかよ。』
「いやー、空耳じゃなかったか。気付かないふりしようとしてたんだけど。もう無理かな。誰なんだ?俺がこっちに来てから、ずっとついてきてたよな?」
異世界に来たら、一度はこういう展開になると、日々想像していたのだ。まさか、それが自分の身に起こるとは思いもしなかったけど。小説のネタとしてそういうのを考えてただけなんだからさ。
「で、お前今何処にいんの?」
『君の後ろさ。勇者なのに気配も感じ取れないんだね。残念だよ。』
毎度毎度うるさい奴だな。そもそも俺は勇者じゃないし。
そう思いながら、後ろに目線を移す。
「なんだ。ホワイトタイガーみたいだな。しかも、子供みたいに小さい。あ、子供なのか。」
『君さ、目上の人とかには礼儀正しいけど、僕とかには、塩対応だよね。』
・・・?そこ?気にするとこそこ?小さいって言われたのを怒るんじゃなくて?そこ?
「はぁ、さっきはありがとう。ホント、あのままじゃ考え込んで倒れてたかもしれなかったから、助かったよ。」
『うわ、褒められちゃった。ちょっとキモいかも。』
本当に失礼だよな。俺は、お礼しただけなんだけど。
『寒いわ。ちょっと、ダジャレはやめて…』
「そんな気さらさら無いんだけど。てか、勝手に人の考え読むな!」
う、うんん?眩しいな。太陽が昇ってる?
「は!もう、11時!!小説、何書くか考えなきゃ。」
昨日は、変な奴と一晩中話しちゃったからな。くそ面倒だぞあいつ。
ドタドタと歩いて、机からペンと、紙を取り出す。
「いやぁ、ペンと紙があって助かった。ほんとに。」
[小説を書くための工夫
まず最初に、5W1Hで、考える。
そのあとに、仮の題名、テーマ。
キャラクターを決めて、キャラの設定。
サブキャラ等を決めて、その設定。]
と、まずはここまでで良いかな。この世界にはパソコンないみたいだし、全部手書きで書かないといけないってのが残念だよな。向こうでかいてたときも、手書きだったからなんの問題もないけど。
『そんなに、悠長にしてて良いわけ?』
この、声は……
「やっぱりお前か!昨日結局、名前も名乗らずに帰ったよな?今日こそ、名前を教えてくれよな!」
『僕は、虎。タイガーの虎だよ。ちなみに僕って言ってるけど、女の子だよ!』
お、女の子だって?その口調で?あ、確かにこういう子いるよな。だから、俺の心に刺さることばっかり昨日言ってきたのか。納得だぜ。
『それでさ、君にマスターになって欲しいんだ。』
次回、【マスターになる権利】