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ここより試練(改編

作者: Coke!



 アプリゲームの開発は戦場だった。そこら中のデスクでため息が漏れて、今日もまた泊まり込みになる面々ばかりだった。

 しかし、デバッグを言いつけられた俺はもうやる気などなかった。期日が言いつけられていたが今日もサーバールームでチョコレートを貪る。こんなところにわざわざ足を運ぶもの好きはいない。期日の日に出来ませんでしたと言ってクビになろう。ブラック企業すぎるし。

それより、真夏とはクーラーをガンガンにかけてペプシコーラを飲みチョコレートを貪る季節だ。

「プハッ‼︎ サクサクの明治のクランキーに、ペプシコーラはよく合うな〜。チョコレート食べ過ぎて鼻血が習慣病になったが、たったの100円くらいで食べれるこのチョコレートはマジパネェ。喰わない奴はバカだな」

 チョコレートの空箱を積み上げる。

「ほう、それはチョコレートアレルギーの私に対しての侮辱だな」

 声がするほうに振り返ると、ディレクターが蔑んだ目で見ていた。

「ひゃあ‼︎」

 驚きすぎて持っていたペプシコーラがサーバーにぶっかかってしまう。即座にサーバーが火花を散らしてショートした。

 その日、アプリゲームのリリース日が延期された。

 

 損害賠償金2億。


 藤崎東吾27歳ーー俺は自殺した。





 極彩色の南国の羽の色をした雲にいた。そこへ袈裟を着た坊主が現れる。

「ようこそ仏の世界へ」

 俺は首を傾げる。

「ここは天国にいるのか。俺は自殺したのに」

「あなたが試練に受かったら、極楽浄土に行けます。では試練の間に」

「試練ってなんだ?」

「はい。極楽浄土とは悟りの境地に達した者が行く場なので、試練があります。あなたには今から起こる出来事を平常心で聞いてもらいます。それが良ければ極楽浄土へ案内します。このメーターがピコンって鳴らなければ大丈夫です。では行きますよ」

「おい、ちょっと待っ」

 案内人と入れ替わりに

「ハイどーも、わたくし、眉間に蟻がたかる釈迦でーす‼︎」

 全身金箔塗りのブーメランパンツ姿の釈迦が出た。

 だが、目と目があっても俺は凍ったままだ。

「ならヒトラーも笑った一発ギャグ」

 俺はゴクリと生唾を飲み込む。もしかしなくてもこれが試練なのか。もしこいつの一発ギャグで笑ったら俺はどうなるんだ。地獄送りか? 俺は緊張しながら釈迦を見つめる。

「北極でバックしてたらアイスビバーク‼︎ ハイ、そーんな釈迦、そーんな釈迦」

「…………」

 釈迦は足跡に金粉を残しながらガニ股で下がった。

 ヒトラーは笑いの感性がおかしいからあんな大虐殺ができたのかもしれん。

 代わりに案内人がお腹を抑えて笑っていた。

「ハハハハハっ、このギャグに笑わないとはなかなかの平常心。やりますね。次行きますよ」

「いや、これは笑わな、次⁉︎」

 今度は液晶テレビが置かれ

「本日のお昼のワイドショーのメインです。なんと通り魔連続殺傷事件の元少年Aが手記を出版する予定です。いったい何度、遺族の家族を悲しませればいいんでしょうか」

テレビのコメンテーター達が眉間に皺を寄せるが俺は口を半開きに見る。

「…………」

「クソッ。本が売れればなんだっていいっていうのか」

 怒った案内人が喝を入れる棒で釈迦の尻を叩いている。釈迦は気持ち良さそう顔でヨダレを垂らしている。

「ハッ、失礼致しました。以下にして試練は終了です。よく平常心を保てましたね。98パーセントが脱落するんですよ。この試練で」

 感性が歪んでるだろ98パーセント。そしてあんたは俗物過ぎるだろ。

「ささっ、では極楽浄土へ案内致しますよ」

 案内人は俺の手を引いて、永久無制限天国のところへ連れて行こうとする。

「まあでも、ホワイト企業どころか、一気に富豪生活じゃないか。ラッキー」

 そう、もうあんな生活とは縁を切るのだ。働けど働けど金はたまらず、怒られる日々。これからはチョコをいくら食べても財布も虫歯も恐れない世界へ行くのだ。

「あっ坊や、勝手に入って来ちゃダメだよ」

「お母さん、どこ? 僕なんでここにいるの?」

「ああ、受け付けをやらずに来たんだね。じゃあ私が受け付けをやりましょうか」

「ええ、俺の天国は〜」

「まあ、待ってください。極楽浄土は逃げませんよ。坊や、じゃあ、いくつでどうやってここまで来たのかな」

「ぼく、10さい。あついところからきてカカオの木から落ちたんだ」

 遊んでてそのまま亡くなったのか。親も泣いたんだろうな。

「それで、それで、どうやって生活してきたのかな」

「えっ、あの、ぼくカカオの実をとるしごとをしていて、あのこれから先もずっとそうなんだ。お母さんとかお父さんとかぼくたちのことをどれいっていうんだって」

 あれっ、なんだか胸がせつないような。

「ぼくね知ってるんだ。カカオの実からはチョコレートっていうのができるんだって。それがあまくておいしいんだって」

 少年は人差し指をくわえる。

「せんしんしょこくの人はいっぱい食べれるらしいんだけど、ぼくは食べたことなかったから一回食べてみたかったなあ」

 ピコン。

 メーターの針が振り切れていた。

 案内人の瞳が猫のように開かれている。

「そんなムリでしょう。現代社会の闇だよ‼︎もうやめてくれ。胸が苦しい」

「いいえ、約束は絶対です。さあ、極楽とは無縁の世界へ」

「ひぎゃああやめてー‼︎ チョコなんて二度と食いませんから」

「わーおじさんチョコたべたことあるんだ。すごーい。ねえあまかった?」

 少年のあどけない感嘆はキラキラと眩しかった。

 罪が。罪が俺を襲う。断罪せよと襲う。

「地獄へ送ってください」


 それから俺は一生懸命に働いた。畑を耕し農作物を育てた。

 蔓の先に心臓みたいな実をもいで、粘りつく灼熱の暑さに汗を拭う。

「おう、真面目に働いているな」

 籠一杯の実を見て監視役の鬼が話しかける。

「へい。デスクワークばっかりだったんでこんな自然の中で働くのは悪くないです」

「そんな頑張っているお前に特別だ。お前が生前好きだったチョコレートを持ってきたぞ」

「嫌ー‼︎ チョコレートは嫌だー‼︎」

 きょとんとする鬼を置き去りにして、俺は畑から逃げ出した。

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