ああ非情…
思いついたので書きました。全く推敲とかしてませんが、眠いので寝ます。ってか本編描かなきゃいけないのになぜ別の物語が思いつくんだ! と思いながら書きました。時代劇の小説を読みまくってたのでなぜか話し方とか舞台とかが江戸時代になっています。
―お母様! 第三十一子お生まれになりました! お美しや女の子でございます。
―おお。そうか…また女かえ?
―はい、そうでございますが…何でしょう。
―そうかそうか。分かり申した。後程話がある故、今暫し休息いたす。
―畏まりました。では女の子は是非奥方様のお傍に
―いや。今はやめておこう。
「ん…」
私は深い眠りから覚めると、眼前に広がる大衆を見下ろした。綺麗な緑黄色の着物を着た私は五歳になって尚、母上の顔を見たことがない。名も与えられていない。ずっと育ての若女将に付きっきりで算盤や琴の稽古をさせられた。若女将は私の三歳年上で、テキパキと動き回って私のお世話をする。私は基本自分から行動することはなく、ずっと若女将に命じられたことだけをやってきた。若女将から「未名子様」と呼ばれ、私はその言葉の意味をまだ知らない。
そして五歳になった今、若女将は神妙な面持ちで私の前に立つと、昼起きたばかりの私にこう言った。
「未名子様に行っていただきたい場所がありまして…」
「どこじゃ? そこは」
「それはまだ――」
と、若女将にはぐらかされ向かった先は、人が行きかう商店街。その丁度真ん中に位置する見世物屋『とんでえ』であった。私はその店の中央に立たされ、とんでえの主人【げんごろう】は大きな口をにんまりと逆への字に伸ばしてこう言った。
「あなた様の名は何と言います?」
「私は…」
名前はなかったが、若女将に言われ続けた未名子を思い出してとんでえに言った。とんでえはこれ以上ないほど横長い笑みを浮かべて、大衆の方に踵を返すと、大手を広げて叫んだ。
「皆様。未名子様、未名子様でございます。はい!五両から!」
私は訳が分からなった。とんでえが叫んだ途端、大衆は一斉に大声を上げて数字を叫び始めた。次々に飛び交う数字、手を挙げて必死に主張する大人達。私は何が何やら頭の整理が全く追い付かず、助けを呼ぶため若女将を探すが、どこを探してもその姿は見つかることはなかった。私は思った。これは本で読んだ漁場で行われるせり(・・)というものと同じではないか。
だが詳しいことはよくわからなかった私は、その場を茫然と立ち尽くした。五月蠅い群衆がいつ止むか、早く静かな場所でゆっくりと過ごしたいと願いながら私は待った。
だがそんな時、私は群衆を細めで眺めていると、ふと二人の男女が見世物屋から去っていく姿が見えた。私は何故だかその男女が気になり始め、私は過激化する店主と群衆の隙をついて、一気に走り出した。私は逃げるのが得意だ。若女将との鬼ごっこで負けたことがない。私は驚く群衆をかき分け、見世物屋から逃げ出した。
それから私は男女の姿を探し始めた。どこへ行ったかは分からなかったが、左から右へ通り過ぎたことから、私は右側の商店街を見渡した。そこには揚げ物屋、提灯屋、団子屋、服屋、うどん屋が忙しなく立ち並んでいた。よく見ると男女は、団子屋の入口付近の長椅子に仲良く座って団子を食べていた。私は団子の方を見て思わず腹が鳴った。そういえば今日何も食べてない。私は空腹に耐えきれず団子屋の方に一直線に走った。
私が走る中、男女は仲良く団子を分けて食べ、そして遂に口と口を合わせた。とその時、男女の頭から何者かが透明な液体をかけた。
…ぎゃああ!っと男女共々悲鳴を上げると、男女の体が黒い汚泥のような色に変わったかと思えば、二人の肉体は融合し、重なり合った二人の体から更に泥を満遍なく被った化け物へと変貌した。私は目を二、三度擦りながら化け物を見た。だがこれは現実。泥は更なる泥を呼び、化け物の大きさは松の成木よりも高くなっていた。
商店街にいた人々は化け物を見て叫び合い、ある者は商売道具を投げ捨て慌てて飛び出し、ある者は転げながらも辛うじて逃げ切り、ある者は汚泥の中に飲まれ、私くらいの子供二人は母親と一緒に逃げようとしたがすぐに捕まり汚泥の中に飲みこまれた。
だが私は立ち尽くした。私は恐怖で遂に足が止まってしまったのだ。体は小刻みに震え、己に何度も罵声を浴びせ続けたが、足は動く気配はない。汚泥の化け物には顔がない。唯の汚泥の塊であり、己が意志で汚泥を人間達に向けて飲み込んでゆく。最早どうすることもできない。そう確信した私は、ゆっくりと目を瞑った。そして心の中でこう言った。
―どうか苦しまない死を…
私は若女将に死についてこう言われた。
―死は恐ろしくも、命あるものに須らく訪れる終わりです。なのでもしだめだと思ったら、目を瞑ってこう思うことにしています。楽に死なせて…と。
私は初めての死の前に、自然に若女将と同じように願った。それに深い意味はないが、やっぱり苦しいのは嫌だ。おたふく風邪の時も腹痛を起こした時も、そして今もそう思っている。だから私は相手が化け物であっても、もし叶うなら苦しまない死を願うことにしたのだ。
「お前が『偽融魔』か」
私は自分の目の前にそいつが現れるまで、気配に全く気付かなかったことに驚いた。そして私はすぐに目の前を見上げると、長い髪を結んだ馬の尻尾のような髪をした褌一丁の男がふてぶてしく立っていた。
「誰じゃ?」と聞いてみると、男は振り返ることもせずに言った。「俺の名は…忘れた」と。そして男は化け物を見据えて更に言った。
「偽融魔になっちまったらもうおしまいだ。死ぬしかない」
「ぎ、ゆうま?」
「そうさ、娘っ子」
男は背中越しで私と会話した後、突然偽融魔に向かって走り出した。そして懐から巻物を取り出し、瞬く間にそれを宙に舞い上げた。巻物の留め具が消え、真っ白な和紙が空を舞った。だがそれも一瞬、化け物を見つけるや否や(・・・・・・・)真っすぐ化け物の方へ和紙を伸ばした。和紙が何尺も伸ばして化け物を隙間なく巻き付き、化け物を動けなくしたところで、男は右腕、左脚、背中の順で銀色の刀を取り出した。男はその三つの刀を合体させていき、化け物の高さ並みの長い柄なし刀に作り上げた。男は言う。
「とっとと死んじまいな。仲良し偽融魔さんよ!」
男は長刀をいとも簡単に振り翳した。このままいけば偽融魔を切り下すだろう。私はそう思った途端、どこか悲しくなった。あんなに仲が良かった二人が化け物になって死んでいく。そう思ったらいてもたってもいられなくなった。私は飛び出した。そして化け物と男の前に立ち、男に向けてこう言った。
「待て」
と。だが男は私ごと長刀を振り下ろした。真っ二つに切り裂かれる私。そんな私を見て驚く男の顔、体中が燃え上がるかのように熱くなり、血の巡りが一気に上がった。そして私の意識はどんどん遠のいていく中、男の声がうっすらと聞こえた。
「何で、お前まで――」
―は! ……は?
私は今まで深い深い夢を見ていた。しかも前と同じ赤子の頃の夢…だと思う。だがしかし夢のことを考えるよりも先に、私の思考は止まった。
―私が――眠ってる?
私の見る先にあったのは、包帯だらけの私が布団で眠る姿だった。真っ白な綺麗な毛布に枕、そこにいる私は笑うでも苦しむでもなく、無表情で眠っていた。そして私がいる場所は恐らく部屋の天井。何故そんなところにいるのか、というか今浮いているのだろうか。私は自分がどうしてこうなったのか全く理解できないまま、ついには頭がくらくらし始めた。このまま考えていてもしょうがない。そう思った私はとりあえず今いる部屋を眺めることにした。
すると布団で眠る私の横には、これまた白い服に身を包んだ禿の老人が胡坐を掻いていた。老人は布団で眠る私に向かってぶつぶつ何かを話している。とりあえず耳を澄まして聞いてみることにした。
「―えず体を接合できた。後は本人次第か…」
接合。……難しい言葉を話すお人だ。だが悪いようには見えない。私は老人の動向をじっと観察しようとした、その時。ふいに老人が私の方を向くと、少し声を大きくしてこう言った。
「お前さんが、この子の本体ってやつかね?」
天井にいる私を見て言ったのだ。私は思わず「え。…………はい」と言ってしまったが、老人はニコリと浅く笑って続けた。
「まだ戻れないかね。ここに」
指さす方は勿論布団に眠る私。私は初対面の老人相手に狼狽えながらも、首を傾げるだけにした。私には一体何が起こっているか見当もつかない。だからこう返すしかない。戻れるなら戻りたい。けどどうやって戻るのか。それが分からないのだ。老人は私を見て「ふむ
」と言うと、それからじっくり三十分近く考えた。私はその間、自分を落ち着かせて、今自分が出来ること、行動できることを探すことにした。
三十分の間で出来たことは、天井以外にも地面に立つことが出来ること、物を持つことが出来ること、暑さ寒さなどが感じない事、老人との会話が出来ないこと、老人には私が見えることが解った。老人は部屋中を回る私を見てこう言った。
「とりあえず君の名前を聞こう」
とは言ったものの私に名前はない。私が首を横に振ると、老人は「ふむ」と言ってまた考えた。だがすぐに答えを出して私に向かってこう言った。
「銜子はどうだろうか」
私はその時、闇一色だった心が一気に晴れ渡った気がした。銜子、その名前には何か嬉しい気持ちになれる感じがした。私は首を縦に振って受け入れた。老人は「そうか」と満面の笑みで喜んでくれて、私もまたふわりと喜んだ。
老人は自ら「白爺とでも呼んでくれ」と打ち明け、銜子こと私と白爺は少しだけ仲良くなった。暫くして白爺は私を自分の傍に寄らせると、ゆっくりと話を始めた。
「この町は悪い奴がいてね。仲のいい人達を『偽融魔』という化け物に変えてしまうんだよ。偽融魔にされた人は理性を失い、周りの人間を食らい続けるようになる。そしてある一定の大きさになるまで食べたら――」
「おい爺」
「え?」
話の途中、突然誰かが部屋に入ってきた。それは忘れもしない。褌一丁で馬の尻尾のような長い髪をぶら下げた男であった。男は私の方を見て、大きくため息をついた。
「爺、また幽霊ってやつと話してんのか?」
「ああそうか。お前には見えなかったねえ」
「もう治したのか?」
「まだ。意識が完全に外に出ちまって、どうしたもんかと――」
「何だよ使えねえな…」
突然入ってきた男と白爺が私を無視して話し始めた。私はそれに反抗するように、男と白爺の中に割り込んで騒いだり喚いたりした。だが白爺はきょとんとしただけで、男の話声を止めることは出来なかった。
「爺。とにかく俺は出て行くからな」
「まあ待ちなさい。ほら、これ」
と言って、白爺が踵を返す男に袋を渡した。袋の底には丸い小さな玉が幾つも入っていて、男はそれを見て訝し気な顔で振り返った。
「いらん」
だが白爺はすぐに真顔になって「持っていきなさい」と、どこか奥底に強い遺志を込めて伝えると、男は髪をくしゃくしゃにしながら渋々受け取った。そしてすぐに袋の中身を弄り丸い何かを取ると、それをそのまま口に入れ一気に飲み込んだ。そして私の方を見た。すると男は目を擦りながら私の方を凝視して見て、こう言った。
「ちっちぇえガキだな」
私は男な言葉にカチンときたのか、思わず男の顔面に拳を叩きこんで、怒りを込めてこう言い返した。
「うっさい! 馬の尻尾野郎!」
勢い良く殴り過ぎたのか、男は後ろの端まで転がっていき、壁の方で強打して止まった。私の怒りはこんなものではないが、白爺は責めるでもなく私の方をじっと見て、ふとこう言った。
「楽しそうだね君たち。…あ、そうだ。いいこと思いついた」
白爺はほくそ笑んで私と男を見た。私はそんなことよりもこの男に聞きたいことが山ほどある。今こそすべてを詳らかに問い質す時だと息巻いて、男の方に睨みつけた。白爺は男が顔を抑えながら戻ってくのを待ってから、私と男にこう言った。
「君たち。一緒に偽融魔退治に行ってくれないか」
私と男は一瞬にして目が点になった。
書くことがあまりないですが、とにかく推敲してないので文字や構成やら何もかも稚拙で準備不足な箇所だらけですが、楽しめて頂けたら嬉しいです。まあ面白かったり続きが読みたかったら、評価付けてください。頑張ります。励みになります。力になります。後好きな小説は時代劇と推理ものですかね。