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鉄の世界に咲く花は  作者: イロハ
一年生
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上級生

クラスのみんなで廊下に並び、グラウンドへと向かうべく歩き出す。

正直いって、とても楽しみ。

この高校に入った目的を、やっとこの目で見ることができると思うと心が弾む。

もともとこの高校に入ろうとは微塵も思っていなかったけど、あの日、あの事件を目の当たりにしてからは機体というものにとても夢を感じるようになった。

その夢を感じるものを見られるとなればもちろん、楽しみなわけである。

他のみんなからも楽しみオーラが溢れている。後ろの子と話している葉菜も期待が隠せないようだった。



さながら野球場のようなグラウンドの客席に案内された私たちは、ほとんど誰も自分の席には座っていなかった。

流れ弾や機体の破片から守るために張られた分厚い壁に体を押し付けるようにしてグラウンド中央を見ていた。

そこに並ぶのは上級生、2年生たちの機体。

訓練生でも扱いやすいよう、兵装は簡易な射撃武器とナックルのみ、機体サイズは5メートルほど、俗にいうssサイズ。

主な色は白の、《エリスム》という機体がクラス分、20機並んでいる。


「お願いします!」


「「お願いします!!」」


2年生達の挨拶が聞こえる。そこに立つ先生は南風野(はえの)先生。

一流パイロットとして名高い人だ。


南風野先生の隣には中型で緑の機体が立っている。中型の割には小さめのバックパックを搭載しており、脚の部分を無くし、軽さに重きをおくことで機動性を伸ばした近距離での格闘戦を得意とする《グラッジ》だ。


グラッジを見たことで、私たちの鼓動が高鳴る。

とてもかっこいい。


あんな機体に乗れるようになりたいと切に思う。

だからこそ、弓道などの好きではない授業も乗り越えて行けるのだ。


「お願いします。ではまずは、前列の5人は機体に乗り込んでください」


先生の指示によって、5人が自分の機体へ歩き出す。

コックピットへ入ると、それぞれの機体が順に起動していく。

目が黄色に光り、バックパックが開く。

先生もグラッジへ乗り込み、起動を行う。


「今日の授業は主に近接格闘を鍛えます。待っている15人は授業前に配ったプリントに他の人の動きについてメモを取るように。授業が終わる10分程度で情報交換を行います。では、乗り込んだ5人は、Lの方向へ並んでください」


グラウンドはA~Pの16方位に分けられる。

Lの方向、ちょうど私たちの正面だ。

特にLの方向にしなければならない理由はない。

おそらく、南風野先生の粋な計らいであろう。

私たちは、緊張と喜びに固まる。


大きな機体が目の前にくる。

私は震えた。


5機が全て定位置につく。

ちょうど真ん中の機体が振り向いてこちらへガッツポーズをしてくれた。

緊張をほぐしてくれるつもりだったのだろうが、目の前で動く機体によりいっそう緊張が深まる。

それはみんなも同じようで、口を閉じ、なおも壁とくっついたまま固まっている。


「ハッチ、開きます!全員、戦闘用意!」


反対側の大きな扉がゆっくりと開く。

そこからでてくるのは淡い灰色をした練習機、《ケタス》だ。


超軽装甲により量産が可能で、兵装は20mmマシンガンのみ。

機体サイズもエリスムと同じssである。

まさしく練習機にピッタリな機体である。

それが10機ハッチから出撃してくる。


「この授業では射撃武器の使用は最小限に。極力ナックルのみで1人2機、撃墜してください」


その先生の呼び掛けで、目の前の2機のバックパックが勢いよく風、炎を噴射、エリスムが敵機へと飛んで行く。


機体同士の激しいぶつかり合い、火花が散り、弾が飛ぶ。

ケタスから放たれるマシンガンを華麗な機体裁きで回避する上級生達。

その姿に大きな大きな憧れを抱く。

かっこいい。


みんなそろって閉じていた口を半開きにしてその戦いを見守る。

こんなふうになりたいと、みなが同様の気持ちを抱きながら。


エリスムのナックルがケタスを打つ。

それにより、ケタスのダメージが限界を越え、爆発する。ケタスにはパイロットはおらず、AIによるシステム制御のため安心なのだ。

しかし、人類側のAI技術は未だ高いものとは言えず、訓練兵の訓練相手程度の技術しか持っていない。


徐々に減っていくケタス。

しかし、エリスムの方にも傷が増えていく。

ようやく10機を墜としたときにはところどころ装甲が剥がれているエリスムもあった。

練習を終えた生徒の機体はハッチへ入り、メンテが始まる。

次の5人へと練習がうつるころには、開いた口も閉じ、真剣にその戦いを見つめていた。




「すごかったね、先輩達の模擬戦!」


「ほんと!鳥肌おさまらなかったよ」


私は葉菜と話ながら教室へ戻る。

先の練習は先輩の機体は墜ちることなく無事終えることができた。


「来年は私たちがああやって乗ってるだなんて考えられないよ…」


「実際に見てみるとやっぱりかっこいいけど少し怖いよね…」


目の前で爆発する様をみるとどうしてもすこし怖い。

私たちが爆発する側になってもおかしくないのだから。


「だからこそ、今のうちに全力で授業受けないとね!」


2年生になる授業の半分が実習、実戦になる。

座学のほとんどは1年生で終えるのだ。

普通の高校の生徒よりは国語や数学はおバカさんになっちゃうかも知れないけど関係ない。

だって私たちは普通の就職先には行かないから。


「私たちも、機械獣殲滅の一員になれるように、頑張ろう!」


クラスの誰かがそう叫んだ。

誰かはわからないけど、その気持ちはみんな変わらない。

地上に蔓延る機械獣達から地上を取り戻す。

それが私たちの選んだ道なのだから。


そしていつか、太陽が照らす、眩い世界へ。

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