宵の酒癖
「あ~、わたぁしは酔ってないよぉ~?」
修学旅行の夜23時、生徒たちはもうみんな寝ている時間。
先生は楽しいし、あの子達はみんないい子で、「宮井先生ー」って慕ってくれるのはとても嬉しい。
でも、たまには酔わない程度には羽目を外してもいいよね。
しかも今は修学旅行の引率中。
その背徳感が夜酒の楽しさを一層引き出してくれる。
このホテルにはカフェがあるのだが、夜の間はバーになるらしい。
そこで酔わないくらいに、適度に飲んでいたわけだ。
しかし明日も先生は忙しい。
早めに戻ってもう寝ようと思い、千鳥足になっているとも知らず、フラフラと部屋に戻る途中で軽くバランスを崩し、左手を壁につく。
「………おっと」
とっさに出た左手のおかげで、転倒は免れた。
―――――――――ガシャン!
「……あ~~?」
なにかが割れたような音がわたしの足元で響いた。
体が傾いたときに当たってしまったのだろう。
そこにあるのは砕け散った壺。
「これは?ホテルのぉ備品か~…………? …………備品!?」
途端、額に脂汗が滲む。
壺のもとあった場所には何か白いものが置かれている。
恐らくは「あれ」だろうという予想は出来るが、頭がそれを拒む。
しかし現実は現実。認めない訳にはいかない。
「あれ………値札、だよね?」
恐る恐る顔を近づけ、しっかりと確認する。
それは紛れもなく値札だった。
「備品じゃなくて売り物!?ええっと買い取らなきゃ!いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん………え?」
全く、いくら焦っているからといって数字を数え間違えるなんて。
しかし、何度数え直しても連なる「0」の数は決して変わってくれず、
一縷の望みにかけて数え直すほど、値札は現実を突きつけてくる。
結果。
「74万円!?」
値段の確認をようやく終えたときにはすでにアルコールなど体から吹っ飛んでいた。
「あのー、どうかされました? ………あっ」
「あっ」
……………………………………………………………。
どうもこんばんは。
「あのっ!買い取りますから!これっ!いくらですか!?ああ、74万か!ええ74万円!?そんな大金私の財布の中にないですよ! ……ないです」
わかっていながらポケットから財布を取り出すが、当然そんな大金が入ってるはずもない。
「落ち着いてくださいお客様!こちらにあるのはレプリカですので、そんな何十万円もお支払いただかなくても大丈夫ですよ!」
「あのあのあのあのごめんなさいごめんなさい!わたし今そんなにお金持ってな………え?」
全力を尽くして頭を下げていた私はホテルの人の一声でフリーズ。
「ですから、こちらはレプリカになりますので、74万円のお支払は必要ありませんよ……」
安堵の心と恥ずかしさからわたしはまるで骨が抜けたようにふにゃっとその場にへたり込む。
「お、お客様!大丈夫ですか!?」
「ああいえ、大丈夫です―――――――はああぁぁー………」
一連の騒動を終え、ようやく自分の部屋に到着。
レプリカ代は当然払った。
それが本物じゃなくてよかったと心から思う。
「変に疲れた………もう寝よう」
焦りが急激に冷め、その反動か、どっと疲れが押し寄せてきた。
浴衣に着替えようと、押し入れへ向かうと、テーブルの上にある携帯が電話の着信を知らせた。現在時刻は23:30。
私は左手に浴衣を持ったまま右手で携帯を手に取り、名前を確認して顔をしかめる。
「………もしもし、宮井ですが」
「宮井か?私だ、久龍だ」
その声と名乗りを聞き、携帯に表示されていた名前が間違いでなかったことで確信した―――――――――
――――――――何か、「よくないこと」が起こったのだと。
身をかたくして、当然の疑問を投げ掛ける。
「久龍さん?こんな時間にどうされたんですか?」
「単刀直入に言おう。《黒翼》が落ちた」
「!? ……パイロットは?」
「見上と新崎だ」
「え……!2人とも優秀なパイロットじゃないですか………。そんな、あの2人がですか…………となると、やはり」
「そう、新型だ」
聞きなれた低く、だがしかし美しい声。
その裏に隠された怒りや悲しみの感情を感じ取れるのは、これまでの久龍との付き合いの成せるわざだ。
「交戦前に画像が送られてきた。赤い機体だ。しかし、それ以降一切の連絡がない。それどころか、こちらからの通信が全く通じない」
「ある程度の現状は把握しました。……わたし自信何かやれることはありますか?今は修学旅行の引率中なので『本部』へ向かうのは少し厳しいですが…」
「いや、その必要はない。ただ、伝えておくに越したことはないと思ってな」
「わかりました。ですが、本当に大事になればすぐに向かいますので」
電話が切れた。
私は一度大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせることに専念する。
亡くなったのは見上一等兵と新崎三等兵。
どちらも別段仲がよかった訳ではないが、顔見知りが亡くなるというのは気分のいいものであるはずがない。
「………寝られる気がしない」
先程の電話ですっかり目が冴えてしまった。
「………寝酒かな」
電話の前に酒に飲まれていたことなど既に頭にない私は、ずっと握っていた浴衣を置いて部屋の外へ出る。
この気持ちを引きずったままではいけないと自分にいい聞かせる。
生徒たちの前では、私はただの教師、「宮井先生」なのだから。
あいどうもイロハです!
2019年最初の月も早いもので既に半分を終えております。
時の流れの早さは実に恐ろしいものですねー…………。
そんなわけで本編のお話です。
今回は珍しく………というか初めての先生メインです。
非常に酒に弱い先生の緊迫感の欠片もない
話で始まり、後半は真面目な話でした。
先生は先生ではないのか?だとしたら誰か?
いろいろと謎を作れた回なのではと!
………何か締めが思い付かなかったのでこんな感じで雑に終わります!
それではまた次の話にて!




