番外編 研究発表「王都内娼館Dに対するHACCP導入支援の取り組みについて」2
異世界保健所衛生課、その会議室にて。
「保健所長が着席しましたし、そろそろ時間なので今年度の保健所研究発表を始めます。衛生課の発表については衛生課長の私が座長として、各発表の進行を管理させて頂きますのでよろしくお願いします。えーまずは、衛生課技師のテイク・ヘンドラによる”王都内娼館Dに対するHACCP導入支援の取り組みについて”です。それじゃあテイク技師、お願いします」
「はい、それでは発表します。発表テーマは、”王都内娼館Dに対するHACCP導入支援の取り組みについて”です」
「まずは今回の発表テーマを決めるに至った背景を説明します。
先般、王都内各宿泊施設の浴槽水について水質検査を実施したところ、娼館Dの浴槽水から基準値を超えるクリプトスポリジウムとマナ濃度が検出されました」
「その改善指導を行った際に娼館Dの衛生管理不足が露見し、最終的には、まあ原因は不明ですが、施設の責任者が死亡する事態となりました。この事例から私は娼館の衛生を向上させるにはどうすればいいか思案した訳ですが、そこで思いついたのが食品の衛生管理に用いられている手法の1つであるHACCPです」
「今回、娼館Dに対してHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の導入を促して衛生状況の向上が認められたので報告します」
「………(テイクの奴、割と発表慣れてそうじゃない。予行演習でもしたのかしら)」
「…という発表をしようと思いましたが、自分には荷が大き過ぎたためか、衛生状況の向上には失敗してしまいました。代わりと言っては何ですが、HACCP風のアプローチにより、娼館に勤務する娼婦達の性行為技術の向上に寄与出来ました。その全容を発表したいと思います」
「!?」
「えーそれではまず、HACCPそのものについて簡単に説明しますが…」
「あの、テイク技師?」
「なんですか所長」
「今回の研究発表は元々、娼館の衛生管理を主題に置いたんだよね?衛生管理と性行為技術の向上にどんな関係があるんだ?」
「それは無関係です」
「は?衛生管理と無関係な発表をしようとしてるのか君は。ふざけるのも大概に」
「ですが公衆衛生とは関係があります。娼婦たちの性行為技術向上には性病感染防御も伴いましたので。つまり娼婦目線で言うと、客には気持ちよくなって欲しいだけでなく性病には罹りたくないという心理があるんですね。それが長期的な集客に直結するんですから、私はこの心理を利用…ではなく参考にして娼婦の性行為技術の向上と性病感染防御を指導しました」
「うーん、確かに性病予防は公衆衛生が目指すものの一つではあるが…」
「まあまあ所長。いいじゃないですか、性病予防!ここ最近の研究発表はレジオネラだのジカ熱だのでマンネリ化してましたから、テイク技師の今回の発表は新規性がありますよ」
「理事が言うことも一理あるなぁ。…それじゃあテイク技師、発表を続けてくれ」
「わかりました。それでは先ほどの続きとしますが、最初にHACCPについて簡単に説明します。この用語は食品衛生の分野で用いられる単語で、"Hazard Analysis Critical Control Point"の略です"危害分析重要管理点"とも言いますね」
「食品衛生の分野ではHACCPの手法を取り入れて食中毒の発生を予防しています。食中毒の予防で一番大事なのは食品の加熱とか冷凍等の工程であることは皆さんご存知だと思います。この工程を食品調理中で一番大事な、つまりクリティカルなポイントとし、加熱や冷凍を確実に実行したという事実を映像やチェックリストで記録として残そう、というのがHACCPの考え方です」
「で、この考え方を食品衛生ではなく性風俗に当てはめると、"客に性的快楽を感じてもらうため、そして性病感染を予防するために一番大事な工程―――つまりプレイの内容ですね―――を見つけてその記録を残そう"という考え方になります」
「ただ、食品衛生と異なり困難であるのが"記録を残す"という部分です。所長、仮の話ですが、もし所長がプレイしている最中に、娼婦がいきなりチェックリストを取り出してお互いのプレイ内容について記録を始められたら萎えちゃいますよね?」
「そりゃあ、もちろん。仮の話だがね」
「ですよね。つまり、性風俗においては記録の取り方がネックになる訳です。そこで自分は、プレイ前後のアンケートを記録として残せないか、と考えました。ほら、風俗でプレイが終わったらアンケートを書かせられるでしょう。"女の子は積極的でしたか?"とか"女の子のS度・M度は適切でしたか?"とかの質問が羅列してあるアレです」
「あのアンケート中に"騎乗位時のストローク速度は適切でしたか?"、"粘膜接触する前にコンドームは装着しましたか?"といった質問を加えて、クリティカルなポイントで確実に性的快楽や性病予防のための工程を実行していたか、記録を残すことに成功しました。まあアンケートの詳細な内容については追々触れることにして、HACCP導入の本題を話していきましょう。ここまでの説明で何か質問はありますか?」
「はい」
「はい、なんでしょう、ネイザーさん」
「テイクの言う性病予防は男女も種族も問わず公衆衛生上重要なテーマであることはわかるけれど、性行為技術の向上は明らかに娼館Dの利用者、つまり男目線での"気持ち良さ"のみしか考えていないように感じるわ。我々は公僕である以上、女目線での"気持ち良さ"も考慮に入れた、男女公平な性行為技術の向上を指導するべきでは?」
「ネイザーさんの仰るとおりです。真の意味で性行為技術の向上を目指すのであれば男女双方の立場からそれぞれの"気持ち良さ"を考えるべきと自分も思います。しかし、現在王都内に男娼は存在しないことになっていますから、"存在しない"男娼に行政指導を行うことはできない、というのが実情になります」
「…わかったわ、ありがとう」
「もう質問も無いみたいなので本題に移りましょう。実はHACCPには導入のための12手順があるんですが、この手順の説明を1つずつしていると発表時間が長くなってしまうので割愛させて頂きます」
「早速話をするのが、HACCPの考え方をどの娼婦で適用したかです。娼館Dには色々とバラエティに富んだ娼婦がいまして、種族もそうですが、年齢も文字通り千差万別でした。種族が違えば必然的にプレイの内容も変わってきますので、クリティカルポイントもやはり変化します。」
「自分としては、人型に近い亜人種でかつ生殖器に関する知見が既に確立されている、そして娼館での人気も高い娼婦が最初のHACCP導入モデルとして最適であると判断しました。これは自分の好みの問題で、特に根拠はありません」
「自分がプレイを楽しみたいだけじゃないの、変態」
「そしてこの条件に見合うのが娼館Dでナンバー4の人気を誇る、娼婦Aです。彼女は半人半馬のケンタウロスで亜人種に含まれますし、生殖器は馬に類似していることから知見も既にある程度確立されています。しかも中々のプロポーションの持ち主で、ナンバー4であるのも頷けるような美人でした」
「それでは彼女とのプレイの全容を説明しつつ、どこをクリティカルポイントとしたか話していきたいと思います」




