番外編 異世界保健所のソームな人達三千里4
異世界保健所総務課、その執務室にて。
「衛生課がまた何かやらかしたらしいな。調査相手を死なせたとか」
「そうらしいですね、しかもその死に方が尋常じゃなかったって噂ですよ」
「へえ、噂って?」
「あくまで又聞きなんですけど、顔やら体やらがドロドロに溶けて、しかも皮膚が緑色に変色していたらしいんです。体型から辛うじて人型の生物だと判別できるレベルだったって知り合いが言ってました」
「なんだそれ気味悪い。衛生課の奴ら、塩酸でも持ってったのか?」
「塩酸じゃなくて不動化薬の携行はたまに医薬務課に申請してましたけどね」
「不動化薬で顔が溶けるなんて聞かないけどなぁ」
「まあ、素人の僕らにはどうせ分からないですよ。不動化薬を持ち歩けるのって事務職じゃなくて資格職の連中ですし」
「だな。資格職の奴らのする事考える事は分からねえや」
「そもそも衛生課の調査の件自体、わからないことだらけですよね。調査の協力者、というか被害者も失踪しちゃいましたし」
「それ俺も気になってるんだよなあ。何年か前に医薬務課が担当してた件も調査相手の担当者が植物人間になって、協力者が失踪してたからな」
「そんなことがあったんですか?」
「学院で使っていた実験動物が逃げ出してさあ。しかもその実験動物が結構ヤバい感染症の実験に使われてたんだよ。なんだっけ、えーと、あぁ思い出した。確かマウスエクトロメリアウイルスだ。あの時は事務職まで総動員でネズミ探し回ってキツかったのを覚えてるわ」
「事務職も駆り出されたんですか?危なくないんですかそれ」
「危ない代わりに特別手当が支給されるって話があったからみんな喜んでネズミを探し回ってたよ。保健所って安月給だし」
「でもホントに感染症にかかったらシャレにならないですね。感染しちゃった職員はいなかったんですか?」
「俺は聞いてないな。もしいたとしても隠すだろ。保健所職員が業務に起因した感染症にかかったなんて知られたら士気も下がるし面目もつぶれるし」
「うーん、確かに」
「で、その学院の実験動物管理者が医薬務課の調査相手だったんだけど、マウスが逃げ出した原因を追究してたとこで急に体調崩して植物人間状態よ。しかも実験動物の管理の実情をコッソリ話してくれてたポスドクも姿を消しちまって、結局マウス脱走の原因は不明ってことで処理したんじゃなかったかなあ」
「何だか色々と変な憶測がしやすい話ですねぇ。結局逃げ出したマウスは見つかったんですか?」
「いや、見つかってないよ。でも今のとこ王都で変な感染症は発生してないし、どこかのドブの中ででも死んだんだろ。宿主が死ねばそれに感染してるウイルスも死ぬって聞いたことあるぞ」
「でも死ぬ前に交尾して子供を作ってて、ウイルスが親から子に移ってたりしたら…あー、段々怖くなってきました」
「心配するなって。万が一ヤバい感染症が流行しても俺ら医療行政職員は優先的に保護されるんだからさ」
「それはそうですけど…」
「俺らが心配したってどうにもならないさ。そんなことより、今日この後暇か?」
「まあ、暇ですね」
「なら飲みに行こうや。酒でも飲めばウイルスのことなんてすぐ忘れられるぞ」
「先輩がそう言うならいいですけど、どこに行くんですか?この前行った料理のクソまずい店は勘弁ですよ」
「今日行く店は大丈夫だって!オープンしたばかりだけど裏路地にあるせいであまり混んでないし、料理は結構美味いし」
「へー、おすすめのメニューはあるんですか?」
「おう、”ドラゴンの刺身”がスゲー美味いんだよ」
「そんなもの食って大丈夫なんですか!?腹壊しそうですけど」
「新鮮な奴を提供してくれるから大丈夫さ。ドラゴンの肝で作ったソースと和えるとこれまた絶品よ」
「衛生課の食中毒担当が聞いたら卒倒しそうなメニューですね」
「ああ。いわゆる裏メニューって奴だな。そういえば他にもマンドレイク幼体とかオーガの睾丸も日によっては提供できるらしい」
「…その店って飲み屋ってよりただのゲテモノ屋じゃないんですか?マンドレイクとかオーガとか食い方すら想像つかないですし」
「マンドレイクの幼体は踊り食いが美味いらしい。幼体の絶叫がいいアクセントになって食欲をそそるんだとか。オーガの睾丸は生で食わずに、一旦スライムの腹に詰め込んで発酵させた奴をズルっと食うそうだ。多分精力増強に効くんじゃないか?」
「うわあ…。幼体を踊り食いなんて残酷すぎますね。それに、自分の精力のためにオーガの金玉食うなんて、もし僕だったら親父に顔向けできませんよ」
「代わりに彼女に性欲向けられるんだったら安いもんじゃないか。とにかく、今日はオーガの金玉を食いに行く訳じゃないんだから安心しろって。金も俺が払ってやるよ」
「…!先輩の奢りなら喜んで行きますよ!保健所は安月給ですからね!」
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