番外編 異世界保健所のソームな人達三千里3
異世界保健所総務課、その執務室にて。
「ふぅ、そろそろ決算処理も終わるな。今年度は大したズレが無くてよかったけど、あとは各課の四半期報告を待つのみか………」
「係長、毎期のことながらその仕事大変そうっすねぇ」
「そう思うなら手伝ってくれ、って言いたいがこの仕事は如何せんヒラの係員には任せられんからな。仕方ない」
「私めを主任主事に昇進させてくれれば手伝えるんすけどねぇ」
「アホか、そんなスキルも経験もお前持ち合わせてないだろ」
「んなこと言ったら、衛生課の技師連中なんて事務スキルほぼ皆無なのに主任レベルがちらほらいるじゃないっすか。どうなんです、アレ?」
「主事と技師を比較すること自体無意味なんだよなぁ。あっちは専門知識使うのが仕事、こっちは事務やるのが仕事なんだよ」
「その割に最近、衛生課の事務処理量が増えてきてますけどねぇ」
「主事と技師が全然違うとはいえ、”各課でできる事務は総務課に投げずに各課でやれ”って上からの指示だからな。事務仕事のできない役人てのは面子が立たないからそんな指示が出されたって噂だが、おかげで総務課の仕事量が減ってきてありがたい話だよ」
「ホントっすねぇ。自分の1年目の時なんか事務仕事多すぎて過労死するかと思いましたよ。つーか2年目の時は実際に、過労で死んじゃった人がいましたけど」
「あの時は大変だったなー。”過労死を起こす保健所がどこの世界にあるんだ”つって所長が課長を呼びつけてたっけ」
「ま、正論ですけどねぇ。人民の健康を守るはずの保健所で死者が出ちゃマズイでしょ。でも係長は過労死の件で起きた人事異動のおかげで今の係長の席に上手く収まった訳ですから、内心ガッツポーズじゃないっすか?」
「バカ言え。係長なんておいしくもない席に座らされてガッツポーズなんかできるか。給料も大した額じゃない割に責任が大きいだけだぞ」
「え~それなら係長の席譲ってくださいよ~。最近財布がピンチなんすよホント。ちょっとでもいいから今よりも給料が上がるとありがたいんですけど」
「残念ながらこの部署は一部例外を除いて年功序列だから、給料上げてほしかったら職員課と議員に直談判でもしてみな。ていうか財布がピンチってお前、あの風俗にまだ通ってたりしてないよな?」
「通ってるから財布がピンチなんすよコレが。自分はもう完璧に「ダーク・ミクスチャー」の常連ですからね。女の子にも黒服にも顔を覚えてもらいましたし」
「その様子だと衛生課の件、知らなさそうだな」
「え?何をすか?」
「詳しいことはわからんが、あの風俗の定期検査で基準値違反があったらしい。最近衛生課の課長がよく総務課に来てるのはその経緯報告のためだ。紹介をしておいてなんだが、もうあの娼館には行かない方がいいぞ。お前の財布と健康のためにもな」
「でも、あそこに行けなくなったら王都にはあとバカ高いところとババアしかいないところしかないですよ。「ダーク・ミクスチャー」以外の一体どこで、仕事でたまったストレスを発散すればいいんすか?」
「まあそれは今度、イイとこを教えるよ。ただし、今度教えるまでの間に性病の検査受けとけよ。基準値違反するような風俗の常連なんだから、ひょっとしたら既に性病もらってるかもしれないからな」
「ひどいなー係長、自分は全然健康体なのに。でも少し怖いから検査は受けとこうと思います。ハァ~、さらに出費がかさむなぁ…」
「保健所なら性病検査タダなんだがな。さすがに職場で性病検査するのは気が引けるか?」
「当然でしょう。検査係にはそれなりに女性もいますし、万が一にでも性病罹ってたら一生笑いものですよ。性病検査は医院で受けますよ、さすがに」
「検査結果の報告待ってるからな。もし性病に罹ってたとしても、俺が使う風俗の方は教えられないけど美味い飯屋なら教えてやるから、きっちり検査は全項目受けとけよ」
「ハイハイ。楽しみにしてますよ。ところで係長、今保健所の予算の帳簿をチェックしているところなんですが」
「どうかしたか」
「一言で言うと、、、衛生課の予算が尽きそうっす」
「…またか」
「またっす。さっき係長が言ってた「ダーク・ミクスチャー」の件で検査費が予定よりオーバーしたのと、不動化シリンジの購入が増えたのが原因ぽいです」
「不動化シリンジの購入が増えたってことは…誰かが使ったのか?でも不動化シリンジの使用報告書は今年度はまだ見てないしなぁ」
「不思議っすねぇ。それで、足りない分は保健所のプール予算から衛生課に流用するってことでいいですか?」
「仕方ない、そうしてくれ。ハァ…衛生課の連中は、と言うより技師の連中はどうしてこう金周りの事務が出来ないんだ。予算執行の事務とかも衛生課に任せたら、衛生課の事務方は発狂するんじゃないか」
「イヤ、もう発狂しかかってますよ。同期で衛生課の事務がいるんすけど、”技師共の事務が適当過ぎて頭がおかしくなりそう”ってぼやいてましたもん」
「次に過労死が起きるとしたら衛生課かもな…」
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