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初秋の風邪ひきが見る境

作者: 津島 結武

 僕は部屋の中に張り巡らされた網目状の木の枝と一体化していた。


 初秋のよく晴れた朝の出来事だ。


 いやしかし、一体化とは聞こえが良すぎる。

 枝に取り込まれていた、と表現する方が正しいかもしれない。

 僕はほとんど身動きをとることができなかったのだ。

 寝返りを打ったり、枕元に置かれてある時計に目をやったりするだけでやっとな程度にしか。


 時刻は午前七時ちょうど。いつも僕が起きているかいないかといった時間だ。

 今日、僕は起きていた。しかし実質眠っていた。体が動かないのであれば寝ているも同然だ。


 不意に胸から喉にこみ上げてくるものがあった。せきだ。

 僕はこんこんと乾いたせきをした。

 胸が締め付けられる。息が苦しい。

 どうやら鎖のごとき枝は僕の体内にまで侵入してきているようだ。


 肺、そして喉頭こうとうにそれはまとわりついている。主に気管支を襲っているらしい。

 おまけに脳までも圧迫していた。

 まるで臓器が枝に実った果実のように見える具合だ。


 またせきが出た。昨日からずっとこれだ。季節の変わり目は体調が狂ってどうも致し方ない。


 すると一枚のふすまで隔てられた先の部屋から母親の声が聞こえてきた。

 起きなさい。の一言。

 僕が七時になっても起きないときは、母がこのように一つ号令をかけてくれる。

 僕はそれが発せられ、しばらくしてから起床する。それが習慣だ。

 ところが、 今日はそれができそうにない。


 僕は途方に暮れて、目を閉じることにした。



 *



 僕が再び目を開くと、窓から差し込む太陽の光量がさっきよりも増していた。

 しかし一方で枝の締めつけは緩くなっていた。


 時間は、分からない。だが大体で八時くらいにはなっているだろう。

 もう学校には間に合わないな。


 親はもう仕事へ出かけている。

 かといって授業を無断で欠席するのは何かとまずい。

 ということで、僕は傍のスマホを手に取り、通学している高校に休みの連絡を入れることにした。


 通話を終えると、突然口と喉の乾きを覚えた。

 何か飲みたい。と布団から出て台所へ向おうと思った。しかし僕が自由に立ち歩けるほど枝の強度は弱まっていなかった。


 暑い。

 この部屋は密閉されていた。

 しようと思えば腕を伸ばしてふすまを開けたり、卓上扇風機の電源を入れたりすることもできた。だが今やもうその力すら残っていない。


 親が帰ってくるまで僕はずっとこのままでいなければならないのだろうか。

 そうなれば熱中症は免れないだろう。


 しかし、僕はまたも目をつぶった。



 *



 正午を過ぎて、僕の呪いはようやく解けた。


 少し胸や喉、頭の痛みが残っていたり、せきが出たりなどはするが、自室を縦横無尽に走っていた木の枝はキレイさっぱり消えた。


 おかげでもう立ち上がれるので、すぐに台所へ出向き、今日初めての水分としてスポーツドリンクを喉に流した。

 幾分か気持ちがスッキリした。

 さっきまでは苦しくて堪らなかったのだが、このコップ一杯だけでだいぶ救われた。


 僕は冷凍庫からアイス枕を取り出し、一枚フェイスタオルをこしらえ、部屋の卓上扇風機を宙に向けて起動させた。


 それから一つ息を漏らし、枕の上にアイス枕、その上にタオルを敷いて、もう一度眠りにつくことにした。



 *



 そうして夕方。


 僕がスマホの通話履歴を確認すると、学校へ連絡した記録が残っていなかった。


 結局無断欠席してしまったのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文学的に風邪をひくを表現するとこうなるんですね。 にしても倒れるレベルっって大丈夫ですか(笑)。 ほぼインフルエンザ並みの症状ですね……。 [気になる点] ちゃんと治ってから書きましたか?…
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