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6話目

 帰ってもむしゃくしゃが収まらず、「ご飯いらない!」と宣言して自室に閉じこもった。

 あんな嘘ついて、しかもキスして!? 私の心配はどこにいったのよ! なんなのよ!

 ああむしゃくしゃするー!! とがむしゃらに腹筋して100回。腹が痛くなってきて、ようやく私は落ち着いた。

 しかしなんであんな嘘を……。

 つまり、兄が死んだのは本当だけど、死んだのは七瀬を押したからではないと。で、死神が明日殺しに来るのも嘘だと。

 よく考えれば死神が殺しに来るってどこの小説よ。あまりに七瀬の顔が真剣だから信じてしまった。それにカウントだって引っ越しだって言ってたし、

 ……ん?


 あれ?


 教室で会った時、七瀬は引っ越しじゃないって言ってたよね。いや、「引っ越しみたいなもの」とは言ったけど、私の印象としては、七瀬はそれを認めてなかったと思うんだけど。

 あれ、と冷静に考えると、最後の七瀬の否定の仕方が明らかにおかしく感じた。

 くらげ展を見ていて七瀬が崩れ落ちた時、確かお兄さんに謝ってたよね。謝ってるってことは、お兄さんに押されたのは嘘なんでしょ。


 じゃあどうして、手首にブレスレットをしていたのだろう?


 もしかしたらお兄さんのではなくて、自分で買ったものかもしれない。でもさっきの話が嘘だったとしても、ブレスレットについては、嘘にしては作られ過ぎた話じゃない? だからあれがお兄さんの、っていうのは、本当じゃないかな。

 死に方は嘘だと七瀬は言ってたけど、作り話であんな話、すぐに出てくる?


 ……ある程度、本当じゃないの?


 そこで分からなくなって、ほとんど無意識にツイッターを開いた。タイムラインを遡り、あ、

 ナナハルの、ツイート。



  ナナハル @seven_spring・3時間前


  死神は鎌を忘れはしなかった。件の場所に来

  いと、彼は言う。きっと魂を奪われた後も、

  呪われた兎は天国にも行けず地獄への道を何

  年も彷徨うのだろう。付添おうという飼い主

  を置いて、兎は家を出る。全てが最後だった。

  家も空気も何もかも。それを悲しいと泣く権

  利は、兎に無かった。#140字小説



「なに、これ」

死ぬと言わんばかりの内容じゃないか。

 実在の彼を知った今、暗喩が分かってしまう。兎は彼。飼い主は、私か、親か。そうして死神は、

 死神は、誰?

 どうしても私にはお兄さんだと思えなかった。そしてこうしてツイートしている今、死神がいないわけではないらしい。それが空想家現実かは分からないけれど。

 話を聞いていると仲が良さそうな兄弟、「ごめん」と兄に向って泣いていた七瀬。手首に巻いてるブレスレット。

 ……七瀬の話では、お兄さんが押そうとしたのを避けたから、お兄さん自身が線路に落ちたと言ってた。そうしてそれを助けようと、ブレスレットを引っ張ったって。

 あれ?

 普通引っ張るなら、服じゃない?

 状況を想像してみれば分かる。七瀬に見えるのは、お兄さんの背中のはずだ。

 それをブレスレットを握って助けようとしたっていうのなら。

「お兄さんが、背中から線路に落ちているよね」

ホームに向かって手を伸ばしてる、という状況になるはず。それでブレスレットを掴んだっていうのなら、理解できる。じゃあなんでそういう状況になったの、という話で。

 ただ足を滑らして、お兄さんが落ちたか。または、

「七瀬が落ちそうになったのをお兄さんが救って、代わりに落ちた?」

最悪な状況が目の前に浮かんだ。ふらっとホームに落ちそうになる七瀬。それを引っ張り上げるお兄さん。勢いが付きすぎたのか、その代わりに線路に投げ出されるお兄さんの身体。


 お兄さんを殺したと思っている七瀬は、明日自殺しようとしている?


 思えば自虐の多いツイート、嫌がるカウントダウン、テストの順位も落ちたっていってたっけ。本当に自殺するつもりなんじゃないの。

 まさか、と思いながらも居ても立ってもいられなくなって、慌てて私は七瀬にツイッターでDMを送った。「明日、何する気なの?」

 2分くらい経って確認しようとして、びっくりした。ブロックされてる。

 七瀬のLINEなんて知らないし、メールなんてもってのほかだ。

 そうだ、電話があった。

 部屋のファイルを開ければ、連絡網のプリントがある。それで七瀬の家に電話をかけた。

 2コール目で、「はい」と声がした。男の声だったから、七瀬だろうか。

「あの、遠宮ですけど」

ガチャンッ

「……あいつ」

切った。切りやがった。

 なに、そんなに付いてくんなっていう訳? あそこまで吐露して嘘ついたとかぬかしてキスまでしたくせに?

 逆に腹が立ってきた。ついでに焦る。こんなに連絡を拒否されたんじゃ、いよいよ自殺するんじゃないだろうか。

 杞憂に終わればいい。でももし、本当にするつもりだったら。

 どうやって止めよう。まずどこに行けばいい?

 連絡手段は、もう何もない。私は必死で考えた。


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