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1話目


   ◇◆◇◆◇◆


  ナナハル @seven_spring・1月8日


  溢れる毒を拭い己の口へ運ぶ。耐えきれず吐

  き出した物はヘドロを思わせる汚さだ。また

  吐き、それを口へ運ぶ。断じて許すことは無

  い罪を思い、毒を飲み込む。真っ黒に染まっ

  た身体が教会へ行くことは可能だろうか。決

  して許されない罪の贖罪を願い、十字架に祈

  る。あわよくば断罪の剣を。#140字小説




  ナナハル @seven_spring・1月12日


  もう一ケ月もない。




  ナナハル @seven_spring・昨日


  春を希う死神は花見の供に命を連れていくと

  言った。月光に輝く刃物が貫く先は己の心臓

  か。投げやりに身を晒せば死神は笑い、怖く

  ないのかと問うた。恐怖は微塵も無い。既に

  生きていない者がなぜ死に恐れを抱くだろう。

  口を三日月に歪ませ死神が笑う。静かでなに

  よりだと刃を振りかざす。#140字小説



   ◇◆◇◆◇◆



 どうせ放課後、廊下に誰もいない。そう思って私はスマホを片手に教室へ向かっていた。

 面倒な日直日誌というのは高校でもあって、今日は私の担当だった。そう言っても書くものも何もない。冬だけど外は晴天だし、授業もいつも通り。まあ、いつもと違うことは明日から入試休みが始まるから、みんな嬉しそうだというくらい。学年末もこの前終わったしね。

でもこんなのを書いても、先生は微妙な顔をするでしょ。だから当たり障りなく適当に書いて、今は出してきた帰りだ。

 職員室で先生とちょっと長話をしたから、部活の生徒以外、ほとんど残ってない。それにこの私立校はあまり部活動に力を入れてないから、部活をしている生徒も少ない。おかげで教室までの廊下はがらんどうだ。

 そんな中スマホを開いて何を見ているかというと――ツイッター。

 ……自慢出来ないけど、私は重度のツイッター依存症です。はい。

 始めたのは去年、つまり高1の時。入学祝いにスマホを買ってもらったからね。友達に勧められるがままツイッターを始めた。

 最初はやり方もあまり分からず、適当に面白かった事とか書いてたんだけど、段々それもやめて。

 私がのめり込んだのは、他の人の呟きを見ることだった。

 だって私の居場所は、こんな箱庭。みんなの偏差値が同じくらいだから、考える事もほとんど変わらず、真新しい意見を耳に入れる機会なんてとても少ない。

 でもツイッターは、同年代、サラリーマン、主婦、芸術家、年配、もうありとあらゆる人がいる。それだけ考え方に数があって、1単語調べただけで全く違った意見が出てくる。

 もうそれが楽しくて楽しくて。自分と違う意見に触れた時、目の前の色が変わっていくのが楽しくて。

 ……気付けばフォロー数は700を超えている。フォロワーは友達がしてくれるくらいだから、100ちょっとだというのに。


 その中でも最近ハマってるのは、「140字小説」を読むことだった。

 馴染みあるかな、140字小説。説明すると、ツイッターは1回に書き込める文字数に限りがあって、それが140字。で、140字小説はその上限ギリギリでちょっとした小説を書くこと。

 小説と認めない人もいるだろうけど、私は好きだ。文字が少ないからこそ、例えがきらりと光っている人がいっぱいいる。けっこう詩に近い作品もあるからね。


 それで何人かはフォローしてるんだけど、そのうちの1人が「ナナハル」さん。私のお気に入りだ。

 ほぼ毎日のように140字小説を更新していて、苦しいものを吐き出すような言葉が並んでる。

 今もアカウントを見れば、新たに1つあげていた。しゃぼん玉が出てくるというのに、どうして作品がこうも暗くなるのだろう。その暗さと言葉遣いが気に入って、私はいいねとリツイートをした。



 ふと顔を上げると自分の教室の目の前。さすが2年になって10ヶ月も経てば、階段から自分のクラスがどれくらい離れてるか覚えるみたい。ちょっと得意になって、ひとり鼻を鳴らした。

 どうせ教室に誰もいないでしょ、と上機嫌でスライド式のドアを思いっきり開ける。反対側の壁にぶつかって、盛大な音を立てながら引き戸が反射した。

 1歩教室に入り、思わず足を止める。まだ1人だけ、残ってました。

 ぎょっとした顔でこっちを見てるのは、七瀬だ。特に特技もないらしい、教室でいつも穏やかな、七瀬。国語だけは学年1桁なんだけど、この前の学年末で転落したらしい、七瀬。

「あー、ごめんね、七瀬。誰もいないと思って」

「びっくりした……」

意味あり気に黙るから、私は慌てて両手を振った。

「誤解しないでよね! いつもはこんな開け方しないわよ」

「まさか、思ってないよ」

にこっと感じよく笑って、七瀬は目を伏せた。どうやら手元にスマホがあるみたい。両手を素早く動かして、何かを打ってる。

 特に彼と、無駄話をするほど仲がいいわけでもない。そこで会話は途切れ、私も帰ろうと席に歩み寄った。

 私の席は、七瀬の左隣。鞄を取ろうと彼が座る後ろを歩く。

 その時見えた、スマホの画面。青い鳥のマークがあるから、ツイッターをやってるみたいだ。

 本当に、覗き見をするつもりはなかった。でも、ちらりと目に入ってしまって。


 黒いウサギのぬいぐるみが描かれたアイコンが、目に入ってしまって。


「七瀬って『ナナハル』さん……?」


 知らぬうちに口から言葉が出ていて、気付いた時には秒速でスマホの画面を閉じた七瀬が、こちらを凝視していた。


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