#006「後知恵」
#006「後知恵」
@シュエットの家、キッチン
東海林「今朝、そういうことがありましてね」
東海林、冷蔵庫から野菜を出す。
シュエット「そうでしたか。僕が寝てるあいだに、そういうことをしてたんですね。いつもは二人が出かけたあとに起きるので、全然知りませんでした」
シュエット、冷蔵庫から乳製品を出す。
東海林「真夜中に執筆されてるそうですね。寝静まってからのほうが集中できるからですか?」
東海林、冷凍庫から冷凍食品を出す。
シュエット「そうですね。単純に、習慣と体質によるところもありますけど」
シュエット、冷凍庫からバケツアイスを出す。
東海林「すっかり液体になってますね」
シュエット「蓋を開けないほうが良いですよ。融けると、吸血鬼が飛んで逃げるほどの大蒜の臭いがしますから」
シュエット、トレーに溜まった水をシンクに捨てる。
東海林「ご忠告ありがとうございます、プロメテウス殿」
シュエット「どういたしまして、パンドラ姫。冷蔵庫に関しては、我々はエピメテウスでしょうけどね」
東海林「そうですね。それにしても、夏場に壊れるとはタイミングが悪いことで」
シュエット「本当に。フィッシャーが帰ってきたら、さぞ落胆するでしょうね」
東海林「そのあと、怒るかもしれませんよ。『だから言ったじゃないか』って」
シュエット「いや、それは無いと思います。過ぎたことを持ち出して責めるようなキャラクターではありませんから。そもそも、昨夜のことは記憶に無いと思いますよ」
――裏を返せば忘れっぽいということだろうけど、終わったことをグチグチ言わない性格は、人付き合いの面ではプラスに働いてそうだ。自分も見習わないといけない。
*
@シュエットの家、東海林の部屋
――夏は三十度近くまで気温が上がるけど冬は氷点下まで低くなり、放っておくと家の高さを優に超えるほどの雪が積もる。だから、実家の冬場なら外に出しておけばいい、と言ったところで両親を思い出したので、絵葉書を出すことにした。
シュエット「修理するにも型が古すぎて部品が無いので、買い換えることにしました。夕方には、新しい冷蔵庫と交換できるそうです」
東海林「そうですか。それは一安心ですね」
シュエット「思っていたより安かったので、懐も痛まずに済みました。――絵葉書のほうは、書けましたか?」
東海林「はい。もう少しで書き終わります」
東海林、葉書を裏返す。
東海林「これ、この島の写真ですよね?」
シュエット「そうです。アングルから察するに、南の対岸から撮った写真でしょう。灯台がありますから」
東海林「ヘー」
――スマートフォンが使えれば、こんなアナログな方法を取らなくても済むんだけど、両親揃ってデジタル機器に弱いからなぁ。テレビ番組の録画も出来ないし、何かって言うと、すぐ歳のせいにするし。還暦を過ぎてから、余計に新しいことを恐れるようになっちゃってさ。
シュエット「郵便局の場所も教えておきたいですし、いろいろと買う物がありますから、これから一緒に出掛けませんか? もちろん、書き終えてからで結構です」
東海林「ご一緒します。助かります、シュエット」
シュエット「では、下で待ってます」
――父さん、母さん。自分は今、担当編集者の勧めで、亜人の集まる島へ転地療養に来ています。居候先で待っていたのは、一癖も二癖もあるキャラクターの濃い面々で、毎日ドタバタの連続です。でも、皆さん親切で、楽しく過ごしてるので安心してください。近いうちに、続きを出せればと思います。樹。