#003「鮫青年」
#003「鮫青年」
@シュエットの家、二階廊下
シュエット「ここが君の部屋。僕の部屋は奥で、向かいはビッキーの部屋。これが、この部屋の鍵。合鍵は無いから、くれぐれも紛失しないように」
シュエット、東海林に鍵を渡す。東海林、シュエットから鍵を受け取る。
東海林「はい、大事にします」
♪弦楽器のギーギーという音。
東海林「天井裏から、弦を弾く音がしますね」
シュエット「屋根裏に、もう一人住まわせてるんです。ちょうど君と同じくらいの年頃の青年ですから、話が合うかもしれません」
♪固定電話のベルの音。
シュエット「出版社からかもしれませんので、僕は下へ降りますが、君は好きにして構いませんから」
東海林「あっ、はい」
シュエット、階段を降りていく。
――この家、屋根裏部屋まであるのか。カントリー調で広々としてて、とても居心地の良い家だけど、掃除が大変そうだ。出来る時に出来る人が出来る事をするのが、この家の鉄則だと言ってたけど、自分は何をすれば良いんだろう?
*
@シュエットの家、屋根裏部屋
東海林「こんにちは」
フィッシャー「オッ! 君がショージだね。俺はフィッシャー。オーケストラ入りを目指してるアマチュアバイオリニストさ。昼間は海の監視員をしてるんだ。ボーイズトークの相手に困ってたから、仲良くしてくれると嬉しいな。よろしく!」
フィッシャー、楽器を置き、東海林に近寄り、右手を差し出す。
――テンション高いな。そして、この部屋の散らかりよう。
東海林「こちらこそ、よろしく」
東海林、フィッシャーの右手を握る。
フィッシャー、握られた手を軽く振ったあと離し、東海林をハグ。
東海林「エッ、ちょっとフィッシャーさん」
フィッシャー、東海林を放す。
フィッシャー「アッ、ごめんごめん。痛かったか? つい、感極まっちゃって」
東海林「いえ。ただ単純に、ハグされることに慣れてないものですから、戸惑ってしまって」
フィッシャー「何だ、そういうことか。そうそう。俺のことはフィッシャーで良いぜ、ショージ」
東海林「そうですか。では、フィッシャーと呼びますね」
フィッシャー「丁寧語も已めて欲しいところだけど、すぐには無理かな。アッ、そうだ。せっかくだから、一緒に風呂に入ろう。この家の風呂は、この島では珍しくバスタブ付きなんだ。シャワーだけでは困る俺にとっては、すごくありがたいんだよね。男同士、裸の付き合いで親睦を深めようじゃないか。俺の体質についても、そこでハッキリするし。ヘヘン。きっとビックリするぜ、ショージ」
――この手の煽り文句のあとに披露される物は、たいていツマラナイ物なんだけど、今回は特別例外で、本当に驚かされた。水に濡れた途端、下半身が鮫になってしまったんだからね。触ってみたら肌がザラザラで、これが本当の鮫肌なのかと感心したよ。