#038「再出発」
#038「再出発」
@シュエットの家、書斎
シュエット「これを、ショージに差し上げます」
シュエット、東海林にガラスペンを差し出す。東海林、ガラスペンを受け取り、光に透かす。
東海林「これは、シュエットの、ですか?」
シュエット「そうです。作家に転身する際、それまでと一線を引いて区切りを付けるつもりで、記念に造っていただきました。制作者は、アリーです」
東海林「そんな貴重なもの、いただけません」
東海林、ガラスペンをシュエットに渡そうとする。シュエット、手の平を突き出し、押し止める。
シュエット「貰ってください。いま、それを必要としてるのは、僕ではなくショージです。そして漫画家にとってペンは、作家や記者と同じく、最も重要なツールです」
東海林、両手の平を上にしてペンを持ち、恭しく掲げる。
東海林「ありがたく頂戴します」
シュエット「文字通り、翼を授けました。あとは風を読んで飛び立つだけです。上昇気流に乗れることを祈っています」
*
@天使島、桟橋
ビクトリア「日本で待ってた担当編集者には、うまく伝えられたか?」
東海林「はい。『売れっ子に抜けられるのは痛いが、何とか穴埋めする。席は空けておくから、凱旋帰国する際は真っ先に連絡するように』と言われました。リップサービスでしょうけど」
フィッシャー「俺もすぐ続くから、東海岸で待ってろよ!」
東海林「わかりました。向こうで再会できる日を、首を長くして待ってますね」
♪連絡船の汽笛。
東海林「お世話になりました。特にシュエットには、色々と迷惑を掛けてしまいましたね」
シュエット「お互い様でしょう。ちょっと、耳を貸してください」
シュエット、腰を屈め、東海林に耳打ち。
シュエット「泣きながらでは困りますが、辛くなったり悲しくなったり、誰かの支えが必要になったときは、いつでも来てください。ショージなら、いつでも構いませんから。もちろん、喜ばしい報告なら、尚のこと大歓迎です。天使島は、君の羽根を休める止まり木だと思ってください」
シュエット、背筋を伸ばし、東海林にウインク。
東海林「はい。ありがとうございます」
――思わぬハンサムの大安売りに、新たな扉が開けそうになった気がしたけど、ソッと閉めておこう。
♪連絡船の汽笛。
フィッシャー・ビクトリア、東海林に向い、両腕を大きくブンブンと振る。
フィッシャー「またね、ショージ」
ビクトリア「達者でな」
シュエット、片手を顔の横で控えめに振る。
東海林、片手でデッキの手摺りを掴み、片腕を大きく振る。
東海林「皆さん、お元気で」
*
@連絡船、客室
――亜人だらけの島で過ごした思い出は、一生モノの財産だ。これから先、どんな想定外の逆境に立たされたとしても、この貴重な経験を糧に乗り越えていけるだろう。
東海林、懐からガラスペンを出し、陽に透かす。
東海林「仮に忘れそうになったとしても、この白い羽根を見れば思い出せるよね、きっと」




