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#035「夕焼け」

#035「夕焼け」

@東海林の実家、林檎畑

東海林の父「(おさむ)も変なことを聞くもんだな。都会の絵の具に染まりすぎて、頭の中まで極彩色になってしまったか」

東海林「派手なのは服だけだと思いますよ」

東海林の父「(おら)の子にせよ、修の子にせよ、妻の子には違いないんだ。結婚して妻とした以上、子供の父親が誰だろうと責任を持って育てるだけだ」

東海林「そういうものですか」

東海林の父「あぁ。所帯を持つということは、そういうものだ」

――そんなにアッサリしたものなのだろうか? 

東海林の父「樹。ずっとココに居るのなら、農家を継ぎ、嫁を貰い、後継者を育てる義務を負ってもらう。それが嫌なら、どこへなりと好きな場所に行け。その考えは変わらない」

東海林「その心配には及びません。母さんが退院したら、すぐに出発しますから」

東海林の父「そうか」

――アレ? ひょっとして、寂しいのかな。

東海林「父さんこそ、平気なんですか? 叔父さんから肝臓が悪いって聞きましたけど」

東海林の父「修の奴、余計なことを言いやがって。他人の心配をする前に、自分の身を落ち着けろって話だ」

東海林「身内を悪く言わないでください。叔父さんなら、東京で独身生活をエンジョイしてるようですから」

東海林の父「たとえ、どれほど寂しかろうが、人前では気丈に振舞って寂しい素振りを見せない奴だからな、修は。アイツは俺のことを、よくジョッパリだというが、こちらに言わせれば、修のほうが余程ジョッパリだ」

――兄弟揃って、嫌なところが似てるものだな。

東海林「ねぇ。父さんは、どうして林檎農家を継ごうと思ったんですか?」

東海林の父「長男だから、という理由では納得しないんだろうな」

東海林「ウン。それは、自分も一緒ですから。でも、自分は父さんと違って、ここに残ろうとは思えないんです」

東海林の父「そうだな。俺がここに拘るのは、純粋に、この土地が気に入ってるからだな。そりゃあ、夏は暑いし冬は寒い。台風も通るし、地震も来る。気候条件だけ見れば、こんな過酷を極める土地に留まるのは愚の骨頂だろう」

――何も、そこまで自虐しなくたって。

東海林の父「けどな、樹。そういうマイナス点を含めて、この五所川原という地は成り立ってるし、そういう環境でなければ、この、枝葉まで紅に染まった林檎は育たない」

東海林の父、頭上の林檎を指差す。

東海林の父「仮に他人が客観的に判断したことのほうが正しかろうが、それを自分で間違ってると思うのであれば、無理に他人に合わせる義務は無い。何にしても、中途半端なまま空っぽの人生を送ることだけは、やめろ。戸惑っても良い、迷っても良い、自分の進みたいほうに全力で走って行け。樹の人生は、樹だけのものなんだからな。親の面倒を看る必要なんて、そんな小賢しいことは考えなくて良い。罷り間違っても、自分を親不孝だなどと責めるんじゃない。無事に成人して、夢に向かって懸命に努力してるというだけで、立派な孝行息子なんだからな」

東海林「……はい、父さん」

東海林の父「さて。そろそろ母さんを迎えに行こうか。もう、いい加減、疲れも取れて起きた頃合いだろう。修に、車を出すように行って来てくれ。今度はアイツが運転する番だ」

東海林「アッ、はい」

東海林の父「もし、嫌がってゴネたら、口の中に希釈前の農薬を散布してやると脅しても構わない。あと一回分、納屋に残ってるからな」

――エゲツナイことを考えつくものだな。毒殺予告じゃないか。そんなこと言わなくたって、快く引き受けるって。たぶん。


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