#033「複対立」
#033「複対立」
@在来線、車内
――刑事ドラマの犯人や、失恋した若者に告ぐ。青森に逃亡してくるな。良い迷惑だ。
東海林の叔父「悪いけど、五所川原に着いたら起こしてくれ。ちょっとシエスタする」
東海林「わかりました」
――若ぶっていても、寄る年波には勝てないんだろうな。たしか、叔父さんは父さんと七つ違いだから、今年で五十四歳か。母さんは五十五歳だから、叔父さんのほうが歳が近いんだよな。
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@東北新幹線、車内
∞小一時間前
東海林の叔父「そうか。樹は自分の血液型を知らないのか」
――そうなのだ。意外に思われるかもしれないが、自分は血液型が何型なのかを知らない。もちろん、調べれば判ることだ。献血に行っても良い。だけど、何となく気が進まないのだ。何故か解らないが、直感的に調べてはいけない気がしてならなくて。
東海林「将来、輸血が必要になったときに困りますかね?」
東海林の叔父「それは問題無いだろう。いざとなれば、医師が何とかしてくれるさ。参考までに伝えておくと、兄さんはエー型、義姉さんがオー型で、俺はエービーだ。エーかオーなら良いが、万が一、ビーだったらどうする?」
東海林「まさか。エー型かオー型に決まってますよ」
東海林の叔父「それは、どうだろう。俺と義姉さんが恋仲だったことを、兄さんは知らない。義姉さんの妊娠要因が入籍前の俺との性交渉によるものなら、法律上の不貞行為に抵触しない。そして樹以降に、兄さんと義姉さんには子供に恵まれていない。兄さんが無精子症でないとは言い切れない」
東海林「そんなの、ただの屁理屈ですよ」
東海林の叔父「ハハッ。真に受けるすぎだよ。あくまでも、理論上は可能だというだけで、実際に行なうことは、まず不可能だ。でも、樹は俺に似て、一重で、平耳で、直毛だろう? もし、本当に俺の息子だったら、どう思うかと思ってな」
東海林「からかわないでください」
東海林の叔父「スマナイ。でも、いい退屈凌ぎになっただろう?」
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@在来線、車内
東海林「起きてください。もうすぐ五所川原です」
東海林、東海林の叔父の肩を揺する。
東海林の叔父「ン? もう着くのか。駅前では、兄さんがワンボックスに乗って待ってるだろうな」
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@東海林の実家、階段下
東海林の父「客間は修が占拠するだろうから、樹は二階の自分の部屋を使え。荷物は中学を出た時のままだが、掃除はしてある」
東海林「はい。そうします」
東海林の父「すぐに病院に行くから、荷物を置いたら速やかに降りてくるように」
東海林「わかりました」
――叔父さんの読みは正しかったようだ。もし上野で一休みしてなかったら、とても病院に行く気になれなかっただろう。ここで長旅に疲れてる場合ではない。




