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#032「昔の話」

#032「昔の話」

@上野のレストラン、店内

東海林の叔父「先に着いてたのなら、中で待っててくれれば良かったのに」

東海林「そんな勇気ありませんよ。シティーボーイを気取ってる叔父さんと違って、自分は都会生活に慣れてないんです」

東海林の叔父「フーン。いやにカッチリした格好だけど、成田で着替えたのか?」

東海林「いえ。向こうで初対面の人に会った帰りだったんです」

東海林の叔父「そうか。半袖ワイシャツとスラックス。いかにも学生らしいけど、垢抜けないな。帰りにアメ横にでも寄って、服を買ってやろうか?」

東海林「気持ちだけ、ありがたくいただいておきます」

東海林の叔父「ハハッ。よっぽどトラウマになってるんだな。山を買うか、牛を飼うか、それとも馬車を引くか?」

東海林「そこまで田舎者じゃありません。貯金は、それなりにしてますけど」

――有楽町、銀座、六本木、代官山、表参道、青山、渋谷、原宿、池袋、新宿。地名を思い浮かべるだけで、つくづく東京は恐ろしい場所だと痛感した苦い記憶が甦る。ある時は叔父と、またある時は高校や大学の友人と、時には一人でも訪れたけど、全戦全敗。関東平野一帯には、地方出身者を引っ掛ける罠が張り巡らされているに違いない。

東海林の叔父「一刻を争うときに優雅に食事して良いんだろうか、とでも考えてるのか? 逸る気持ちは共感できるが、そういう時こそ落ち着かねばならない。急いては事を仕損じる。それに、コースではなくアラカルトにしたんだ。それも、すぐに出てきそうなオムライスにね。充分、急いでるほうさ」

東海林「そうですね」

――そういえば、前回はコース料理だったな。洋食のテーブルマナーなんて知らないから、色々とヘマをやらかしたっけ。スタッフルームで、ウエイターたちの物笑いの種にされたことだろうな。

  *

@東北新幹線、車内

東海林「自分のような若輩者が、グリーン車を利用して良いんでしょうか?」

東海林の叔父「三時間以上も普通車に座っていられない。それに昨日は、発注してた資材や什器が帰省ラッシュの渋滞に巻き込まれたせいで、なかなか届かなくてさ。結局、明け方まで作業してたんだ」

――叔父は、空間デザイナーの仕事をしている。華やかな職業に見えて、結構地味で体力勝負なのだとか。しかも、自身でデザインを請け負うかたわら、経営してる事務所の社員の養成も並行している。だから、きっと無理矢理スケジュールを空けたに違いない。

東海林「忙しそうですね。お疲れさまです」

東海林の叔父「何、自分のキャパシティーくらいは把握してるさ。それに、簡単な仕事や苦手とする仕事は、出来そうな社員になるべく回して、経験を要する難しい仕事や得意とする仕事に集中できるようにしてるからな」

――このあと、事務所に寝泊りすることが多いという話から、独身の気楽さに移り、そのまま両親と叔父の知られざる過去のエピソードに変わった。

東海林の叔父「でも俺は、自分と一緒になると義姉さんを不幸にすると思ったから、仕事一筋だった兄さんを紹介したんだ。俺が結婚しないのは、義姉さんにゾッコンだからだよ」

東海林「へー。意外と一途なんですね」

東海林の叔父「バブル期のトレンディー俳優みたいな格好してるのに、とでも言いたげだな。別に良いだろう。それで義姉さんと結婚できるなら、トラックの前に飛び出して止めてみせる」

――自信満々に言う台詞かな? 飛び出された長距離ドライバーにしたら、いい迷惑だと思うところだろう。

東海林「轢かれても知りませんよ?」

東海林の叔父「とうの昔に惹かれてるさ。この不毛な片想いは、生涯報われないだろうけどな」

――このあと、叔父より父のほうが頭が良かったが、父は自分が長男だという責任意識から頑なに家業を継ぐ姿勢を崩さず、担任が何度も大学進学を勧め、ついには家庭訪問に来たけれども、最後まで意志を曲げなかったというジョッパリ談を挟んで、冗談だか本気だか判断しかねる話をされたんだ。正直、どう受け止めて良いか悩ましいところ。


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