#026「恐怖症」
#026「恐怖症」
@天使島、南の岬
――馬鹿と煙は高いところへ上る。いや、別にフィッシャーを馬鹿者扱いする訳ではないんだけど、何でこうなるのかなぁ。
フィッシャー「見えるか、ショージ」
東海林「はい。あれが、この島の観光名所にもなってる灯台ですね?」
――自分は今、フィッシャーが漕ぐ自転車の荷台に跨っている。坂道をものともせずグングン加速するので、振り落とされないよう、背中に必死にしがみついている状態だ。少しばかり飛ばしすぎじゃないかい、フィッシャー?
フィッシャー「そうだよ。近くで見ると、結構デッカイだろう?」
東海林「そうですね。迫力があります」
――近くで見ると、写真で見るよりずっと老朽化が進んでるのが分かる。潮風に吹きっ晒しにされてきた年月の重みを感じさせる佇まいだ。
*
@シュエットの家、ダイニング
∞数時間前
シュエット「昨日は、無関係なトラブルに巻き込んで申し訳ありませんでした」
東海林「いえいえ。気に病まないでください」
ビクトリア「昨日のイザコザを解決する良いアイデアを思いついたから、作戦を決行してるあいだ、今日一日、フィッシャーと二人で出掛けておいてくれないか?」
東海林「アッ、はい」
シュエット「せっかく観光ビザを取得しているのですから、名所を訪ねるべきです。行き先はフィッシャーに任せてますから、どうぞ楽しんできてください」
東海林「わかりました」
*
@灯台、内階段
――もっと気楽に安心して楽しめるスポットを指定しておいて欲しかったな。何でフィッシャーに任せちゃったかな、シュエット。
フィッシャー、手摺りから身を乗り出し、下を見る。
フィッシャー「オーイ。そんなところでヘタリ込んでないで、早く上がって来いよ」
東海林「待ってくださいよ、フィッシャー」
東海林、恐る恐る階段を上がる。
――アー、脚がガクガクする。何で階段の建材にグレーチングと鉄骨をチョイスしたんだよ。下が丸見えじゃないか。おまけに、歩くたびにギシギシと不快な音が鳴るし。ボルトが外れてたり、ワイヤーが切れてたりしてないことを祈りたくなる。
*
@灯台、展望台
フィッシャー「おー、そー、いー」
東海林「日頃から海で身体を動かしてるフィッシャーと違って、自分はインドア派なんです」
フィッシャー「運動不足は身体に良くないよ、ショージ」
東海林「糖分や塩分の摂り過ぎのほうが、もっと身体に良くないですよ、フィッシャー」
フィッシャー、両手で耳を塞ぐ。
フィッシャー「アー、アー、アー。俺は、何も聞こえない。――それより、この見晴らしの良さを堪能しなよ」
東海林「素晴らしい眺めですね。向こうに見えるが、桑港市ですか?」
フィッシャー「そうだよ。山肌に沿って所狭しと派手なビルが建ち並んでるあたりが中華街さ。ショージは一度、シュエットと行ったことがあるんだよな?」
東海林「えぇ。引っ切り無しに人や物が行き交う、賑やかで騒々しい街でした」
フィッシャー「へー。面白そうだな」
――そうか。フィッシャーは、まだ中華街へは行ったことが無いのか。対岸に向ける熱い視線の中には、憧れが多分に含まれているのだろう。
フィッシャー「このまま海にダイブして、泳いで渡っちゃおうかなぁ」
東海林「それは止めといたほうが賢明だと思います」
――ここは飛び込み台とは比べ物にならない高さがあるし、展望台に一人で残されるのはゴメンだからね。




