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#021「小提琴」

#021「小提琴」

@シュエットの家、階段

――ずいぶん遠くへ来てしまったものだ。五所川原の実家から、町田の叔父の家を経由して、この島まで。地元中学から、神奈川の県立高校の美術科、そして八王子の芸術大学。ピークは、高校三年生のときだったな。あの頃は調子に乗りまくってた。出せば売れる状態に麻痺して天狗になってしまってたんだ。現役高校生というブランドが剥がれた途端に、売れ行きが芳しくなくなり、マンネリだと飽きられてきた。デッサンの教授からは、漫画家の割りに基本がなっていないと酷評されたっけ。忙しさに感けてナナとの連絡も疎遠になっていたし。慢心してたんだな。

♪弦楽器のギーギーという音。

東海林「こんな時間まで練習してるとは、珍しいな」

  *

@シュエットの家、屋根裏部屋

フィッシャー「アッ、ショージ。五月蝿かった?」

フィッシャー、楽器を置く。

東海林「いえ。気にせず続けてください」

フィッシャー「良いから、良いから。ショージが居るなら、練習よりトークがしたい」

東海林「そうですか」

フィッシャー「フフン。何で練習してたか気にならない?」

――鼻息が荒いな。何か良いことでもあったんだろうか?

東海林「気になります。いつもは、こんな遅くまで練習してませんから」

フィッシャー「実は、職場の同僚から、島のコンドミニアムに、明日の夕方までオーケストラの指揮者が滞在してる知らせがあってね。半休をもらって、午後に演奏を聞いてもらえることになったんだ。凄いだろう?」

東海林「へー。それはチャンスですね」

フィッシャー「それで、うまくいけばスカウトされるかもしれないと思って練習してたんだ」

東海林「なるほど。イソイソとしてるのは、そのためなんですね」

フィッシャー「エヘヘ。早く身体に合ったサイズのバイオリンを手に入れたいよ」

東海林「そのバイオリンは、借り物なんですか?」

フィッシャー「そうだよ。徒弟修業はやりたくないけど、他にやりたいことがなくてやさぐれてた俺に、シュエットが貸してくれたものなんだ。アッ、そうだ。明日着ていく服や、履いていく靴も出しておかないと」

フィッシャー、ベッドの下から紙袋や箱を出す。

――何も知らないほうが、向こう見ずな無茶が出来る。知識や経験を得ることで変に思慮深く慎重になり、愚鈍に腰が重くなっていく。意気揚々と出かける準備をするだけのポジティブさが羨ましいよ。演奏で食べていけるようになって、自分の楽器を持てるようになると良いね。


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