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#020「茶封筒」

#020「茶封筒」

@シュエットの家、東海林の部屋

東海林「樹は昔から感じやすくて考え込みやすい子だから悩みは尽きないだろうけど、程々になさいね。身体を大事に。母より。追伸。今年も駅前ではヤッテマレーの掛け声が賑やかでした」

フィッシャー「ヤッテマレーって何だ?」

東海林「地元の祭りで囃す掛け声です。要するに、今年も盛大に夏祭りが執り行われたということですね」

フィッシャー「なるほど」

フィッシャー、手紙の文字を指差す。

フィッシャー「何度も出てくるけど、この漢字がタツキなのか?」

東海林「そうです。自分の名前です」

フィッシャー「漢字って、一文字ずつ意味があるんだろう? これは、どういう意味があるんだ?」

東海林「この字は、大きく立派な幹という意味を表します。太く逞しい男になれという願いとは裏腹に、小枝のような人間に成長してしまいましたけど」

フィッシャー「自虐は、やめようぜ。こっちの写真は?」

東海林「中学を卒業するときに、写真館で撮ったものです。手前で詰襟を着てるのが自分で、その両サイドで地味な色のスーツを着てるのが両親、母の横で派手なチェックのブレザーを着てるのが叔父です」

――何で家族写真を同封したんだよ、母さん。

フィッシャー「フーン、意外だな。どっちかっていうと、叔父さんのほうがショージの父親っぽい」

東海林「見た目は似てますね。よく言われます」

  *

@津軽五所川原、ストーブ列車の車内

∞六年前

東海林「ストーブに脚を近付けすぎると、低温火傷になってナマハゲが来るぞ、ナナ」

七海「うるさいわね、タツ。女の子は脚が丸出しなのよ。生膝よ?」

東海林「だったら、スカートを折るなよ。お師匠さんに『ツイッギーの真似はハシタナイですよ』って言われただろうが」

七海「例えが古いのよ、あの後期高齢者は。男の長髪はジョンレノンで、女の短髪はヘップバーンでしょう?」

東海林「あと、バタくさい色男はアランドロン。――焼けたかな。食べる?」

東海林、ストーブの上からスルメイカを取り上げる。

七海「いらないわ、そんなオヤジくさいもの」

東海林「二つに裂いて一緒に食べてたじゃないか」

七海「いつの話よ」

東海林、スルメイカを一口齧る。

七海「……東京に行っちゃうのよね、タツ」

東海林「あぁ。高校は横浜だけど。ナナは、農林高校だっけ?」

七海「そうよ。てっきり、今度もタツと一緒かと思ってたのに」

東海林「ウン。……父さんには、ここに残ることを勧められたよ。林檎農家だし、一人っ子だからね。でも、他にやりたいことを見つけてしまったから」

七海「そう。……もうココへは帰ってこないの?」

東海林「わからない。でも、成功した暁には、必ず戻ってくるよ」

七海「それは本当なのね? 本当に戻ってきてくれるのね?」

東海林「あぁ。約束するよ」

七海「それなら私、待ってるから。タツのこと、ずっと待ってるから」

東海林「あぁ。わかった」

  *

@シュエットの家、東海林の部屋

フィッシャー「ショージ? ねぇ、ショージってば!」

フィッシャー、東海林の肩を揺する。

東海林「アッ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてました」

フィッシャー「しっかりしてくれよ。ノスタルジーに浸るのは結構だけど、夕飯を食べ損ねるのは良くないぜ?」

東海林「そうですね。そろそろ一階に下りましょう」

――適当に端折って省略したけど、手紙にはナナの婚約報告もあったんだ。お相手は農林高校時代の先輩で、農政局の県内拠点に勤めてる堅実な人なのだとか。浮き沈みが激しい収入不安定な人気商売の人間より、景気に左右されない終身雇用の地方公務員の人間のほうが、結婚相手には向いてるよね。いつも左手に彼女が居るのが、ずっと当たり前で、これからもそうだと思っていたけど、そんなものは、ただの好都合な願望と思い込みに過ぎなかったと判明した訳だ。何にせよ、秋に結婚すると決まっていて、いまさらノコノコ帰れない。お幸せに!

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