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#019「蝋の封」

#019「蝋の封」

@シュエットの家、ダイニング

ビクトリア「フィッシャーの進学先は決まったか?」

東海林「まだ決まってません。アーでもないコーでもないと悩んでますよ」

ビクトリア「どうせクダラナイことでウダウダ言ってるんだろう? 進路なんて、その場の思い切りで決めちまえば良いんだ」

シュエット「そうそう豪快に思い切れるものではないですよ。一生を左右するものですから。――ポストに、二人宛ての郵便がありました」

シュエット、両手に一通ずつ手紙を持ち、差し出す。東海林、一通を受け取る。

東海林「自分のほうは、両親からの返信ですね」

シュエット「ホラ、ビッキーも」

ビクトリア「私は受け取らないよ。御大層に封蝋で紋章を捺して、さも貴族然と振舞ってる高慢ちきからの手紙なんて、真っ平御免だね」

シュエット「開封するなり処分するなり、何らかのアクションを強く求めます。速やかに僕の手から受け取らない場合は、この場で読み上げますよ、ビクトリア・アビゲイル・パーシバル嬢」

ビクトリア、封筒を引っ手繰るように取り上げる。

ビクトリア「フルネームで呼ぶな」

――ビッキーにはミドルネームがあるんだ。そこのところを詳しく聞いてみたい衝動に駆られるけど、家庭問題に首を突っ込む訳にはいかないから我慢しよう。機を見て改めて伺う必要がありそうなデリケートさを感じるし、その前に自分宛ての手紙を読んでしまいたくもある。

  *

@シュエットの家、東海林の部屋

フィッシャー「誰かと一緒に居たいけど、一階の二人は何だかピリピリしてるみたいでさ。何があったか知ってる?」

東海林「ビッキーに、シーリング付きの封筒が届いたんです。ただ、どうしてビッキーが不機嫌になったのかは分かりません」

フィッシャー、腕を組み、首を傾げる。

フィッシャー「ウーン。これは話して良いのかなぁ」

東海林「口外しませんから、教えてください」

フィッシャー「ショージは口が堅そうだから、教えちゃおうか。ビッキーがアイドル歌手だったのは知ってる?」

東海林「はい。たしか、二人組みの清純派として活動してたんですよね?」

フィッシャー「そうそう。実はビッキーは、今の生活態度からは考えられないかもしれないんだけど、かなり凄い名家のお嬢様だったんだ」

東海林「へー」

フィッシャー「だけど、あるとき、そんな可愛らしいビッキーにスカウトの魔の手が忍び寄ってね。これが、金銭的にも品性的にも意地汚い事務所だったらしくて、朝から晩まで馬車馬のように働かされたんだ」

東海林「それは災難ですね」

フィッシャー「でしょう? しかも、アイドル活動が原因で家族から突き放されてしまうんだ。踏んだり蹴ったりだよね」

東海林「苦労人なんですね、ビッキー」

――蝶よ花よと大事に育てられた免疫の無いお嬢様が、突然芸能界という陰謀渦巻く泥沼に放り込まれて、すっかり薄汚れてしまったということか。しかも、名家にそぐわないことをしたとして冷たくあしらわれてしまうとは、泣きっ面に蜂だ。

フィッシャー「でも、アイドルを辞めて、シュエットに拾われて、ヘビーメタルのドラマーとして転身してからは、毎日が充実してるらしいから、結果オーライなんじゃないかな」

――人生、山あり谷あり。ビッキーの舐めた辛酸に比べれば、自分のスランプは可愛らしく思えてくる。あくまでも相対的な比較の話だから、大したこと無いという結論には至らないけど。誰かの苦しみと自分の苦しみを、同じ定規で測ることはできないからね。他の子が頑張ってるんだから、君も一緒に頑張りたまえという精神論は、現代社会では通用しないってこと。

フィッシャー「ところで、その薄茶色の封筒は?」

東海林「この前、絵葉書を送りましてね。その返信です」

フィッシャー「そっか。それで、何て書いてあったんだ?」

――さて、どこまで話すべきだろう。手紙の内容を説明するには、ある程度、過去の黒歴史についても触れなきゃいけないんだよなぁ。アー、もう。キラキラした瞳で期待してるところ悪いけど、そんなイノセントな目で見つめないでくれよ。

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