#001「梟の男」
#001「梟の男」
@天使島、桟橋
――連絡船のデッキから降りて、まず自分の目に飛び込んできたのは、スタイル抜群のダンディーな紳士だった。
シュエット「空の旅に船の旅と、長旅お疲れさまです。ショージ」
東海林「アァ、どうも」
シュエット「僕のことは、シュエットと呼んでください。荷物を預かりましょうか?」
東海林「いえ。自分で持ちます」
――中身までジェントルマンみたいだ。男の自分でも惚れ惚れしてしまうよ。こういう歳の重ねかたをしたいね。
シュエット「そうですか。ここから少し歩きますから、疲れたら遠慮なく言ってください。こちらです」
シュエット、歩き出す。東海林、シュエットに続く。
――初対面早々に、こういうことを言うのは失礼かな? でも、訊いてしまおう。旅の恥は、かき捨てだ。
東海林「シュエットさん」
シュエット、歩みを止め、振り返る。
シュエット「僕のことは呼び捨てで構いませんよ。――何でしょう?」
東海林「いえ、その。ガイドブックには亜人の集まる島とあったのに、案外普通だなぁと思って」
シュエット、両腕を広げ、翼に変える。
シュエット「こういう姿で闊歩してると思いましたか?」
――ワオ。本物の翼だよ。もろに猛禽類の羽根じゃないか。
シュエット「オッと失礼。驚かせてしまったようですね。説明しますと、僕は梟の亜人なんです。大空高く飛べるというメリットがあるのですが、羽毛が散らばるというデメリットや」
男性、シュエットを指差す。
男性「アッ、シュエットだ!」
女性「本当。シュエット様だわ」
男性・女性、シュエットに向かって駆け寄る。
シュエット「遠くから居場所が発覚してしまうという欠点があります。すみません、ショージ。必ず代理人を寄越しますので、もうしばらくココでお待ちください」
東海林「エッ、ちょっと。どういうことですか?」
シュエット、飛び去る。男性・女性、シュエットを追い駆ける。
――いきなり置いてきぼりを食らっちゃったよ。何者なんだ、シュエットは。土地勘もない不慣れな場所だから、下手に動かないほうが良いんだろうけど、目の前で繰り広げられた光景の処理が追い着かない。
東海林「頭の中、疑問符だらけだよ」
――このヘブンミニスター島での旅行は、前途多難を極めそうだ。先入観を持たずに済むようにとの配慮なのかもしれないが、情報量が少なすぎて判断を下しようがないから不安だ。
東海林「ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立った、とでも言えば綺麗にまとまるのだろうか? まだまだ日は高いけど」