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#012「桑の港」

#012「桑の港」

@シュエットの家、ガーデン

東海林「水遣りは、これくらいで良いかな。草抜きは、……どれが雑草か判らないから、やめておこう。間違って育ててるハーブを抜いたら駄目だし」

東海林、片手を庇にし、空を見上げる。

東海林「鳥か、飛行機か、いやシュエットだ、なんてね。――おかえりなさい、シュエット」

シュエット、変身を解き、庭に降り立つ。

シュエット「ただいま、ショージ。何だか一雨来そうな雲行きですね」

――降るのなら、水を遣る必要なかったな。根腐れしなきゃ良いけど。

東海林「洗濯物は、もう取り込みました。朝のうちは、よく晴れてましたから、すっかり乾いてます」

シュエット「ありがとう」

東海林「あの、シュエット。ちょっと言い難いことなんですけど」

シュエット「言ってごらん」

東海林「こうして居候させていただけることは、とてもありがたいんです。でも、家事を手伝うだけでは働いた気にならないというか、時間の無駄遣いをしているというか。このまま腕が鈍るのではないかという焦燥感に駆られるんです」

シュエット「何か社会との繋がりが欲しい、誰かに必要とされてると思いたい、ということですか?」

東海林「はい、そういうことです」

シュエット「実は、僕のほうからも一つ、ショージに提案しようと思っていたことがありましてね。クローバーズマートのポップが、僕がコラムを送ってる科学雑誌社の編集長の目に留まったらしく、知り合いなら紹介するように今朝の電話口で言われていたんです。出版社があるのは桑港市の中華街で、これから仕上がった原稿を渡しに行こうと思うのですが、付いて来ますか? もちろん、無理にとは言いません。静養中の身ですから、本来なら家で休むべきです」

――これはチャンスだ。どんな編集長か知らないけど、会ってみるしかない。

東海林「ご一緒させてください」

シュエット「わかりました。ただ、出掛ける前に、そのティーシャツだけは着替えてください。その横文字は、イタリア語で『私は巨乳が大好きです』という意味です」

――この英字、そんな恥ずかしい意味だったのか。日本で変テコな漢字がプリントされた服を着る外国人観光客と同じレベルだな。意味が分かると、途端に着ていられなくなる。

東海林「すぐに着替えてきます」

  *

@桑港市、中華街

――船に揺られて、対岸の桑港市にやって来た。天使島に行く途中にも通り過ぎたけど、島と違って都会的で、様々なものが雑然と込み合っていて、混沌とした中に、生々しいエネルギーを感じる。

シュエット「気恥ずかしいかもしれませんが、この人混みを抜けるまでは手を離さないでください」

東海林「はい。ところで、これからお会いするかたは、どんなかたなんですか?」

シュエット「以前は高校の生物教師で、思ったことを何でもズケズケ言う人ですよ。――ここです」

シュエット、歩みを止める。東海林、遅れて立ち止まる。

東海林「レトロな雑居ビルですね」

シュエット「中に居る編集長も、相当なレトロですよ。何せ、六百歳近いそうですから」

――エッ、室町時代から生きてるってこと? シュエットは冗談を言ってるようには見えないけど、何者なんだ、編集長は。 

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