#009「玉蜀黍」
#009「玉蜀黍」
@シュエットの家、ホームシアター
――アイスが融けたショックは、チョコキャラメルソースがかかった大量のポップコーンで癒えたみたい。ご機嫌なのは良いんだけど、塩分と糖分の過剰摂取が気になるところ。単品でも甘いチョコレートに更に甘いキャラメルを合わせるのは、いかがなものか。
ビクトリア「それじゃあ、イチ推し映画鑑賞会を始めるよ」
シュエット「恋愛物以外で、という指定でしたけど、皆さん何を選んだか気になりますね」
フィッシャー「フフッ。どんな映画が好きかで、性格が判りそうだな、ショージ」
東海林「性格というものは、そんな単純なものではないと思いますよ、フィッシャー」
*
――最初の映画はシュエットのイチ推しで、内容は近未来の世界を舞台にしたミステリーだった。
フィッシャー「ねぇ、ショージ。結局、どういうことだったんだ?」
東海林「開発中の人工知能が管理下を離れて、ヒロインの個人識別情報を悪用してたってことですよ」
ビクトリア「何だ、フィッシャー。トリックが理解できてなかったのか」
シュエット「一度に理解するのは、なかなか難しいですよ。細かな伏線が多いので、何度か観直すことをオススメします」
――よく造り込まれてるから、もう一度、一人でひとりでじっくり観たい。
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――今度の映画はビッキーのオススメで、内容はクリーチャーが大暴れするスプラッタだった。
シュエット「血湧き肉躍る壮絶な戦いでしたね。――終わりましたよ、フィッシャー」
シュエット、フィッシャーの肩を叩く。
フィッシャー「ウゥッ。しばらく、ハンバーグが食べれないよ」
東海林「クッションがグショ濡れですね」
ビクトリア「所詮は全部、作り物なんだ。そんなに怯えることないだろう」
――グロテスクな映像も恐ろしいが、それを笑って観てるビッキーはもっと恐ろしい。
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――次の映画はフィッシャーのオススメで、内容はコメディー全開のミュージカルだった。
ビクトリア「アー、可笑しかった。何だか、まだ腹の奥のほうが引き攣ってる」
フィッシャー「だろう? 俺も最初に見たときは、笑いすぎて酸欠になりかけたんだ」
東海林「爆笑必至ですね。演じてる俳優は大変だったでしょうけど。――何か疑問でもありましたか、シュエット?」
シュエット「ラストのダンスシーンに、途中で車に轢かれた俳優が居たような気がしましてね」
――そんな細かいところまで具に観察してるのは、シュエットくらいだよ。鵜の目鷹の目、いや梟の目か。




