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第94話「ひさしぶりの、エイバスの街(3)」

 

 俺・テオ・ダガルガ・ウォードの4人は、ダガルガの自宅で酒を飲みつつ、各所の近況から他愛もない話まで様々なことを喋った。

 中でもダガルガとウォードが食いついたのは、トヴェッテで俺達が取り決めた内容についてだった。



「……ネレディさん達と話し合って、勇者の功績を残したいっていうトヴェッテ側の希望と、自分の正体をバラしたくないっていう俺の希望を合わせた結果、『勇者がフルーユ湖を浄化するところを偶然見た』って証言する架空の目撃者の存在を作ったんです。架空証言の内容は、俺の容姿とかみたいに“勇者の正体特定に繋がる情報”を省いたうえで、“なるべく事実に沿った形”で固めて流せばボロは出ないはずから、後は噂が勝手に都合よく一人歩きしてくれるだろう……ってことで話がまとまりました」


 俺の説明をうなずきつつ聞いていたウォードが、静かに言う。


「そうか……だったら、小鬼こおに洞穴ほらあなについても、似たような情報を流したほうがいいかもしれんな」

「なるほど! 確かにそれなら、()()()()もおとなしくなるはずだぜ!」


 賛成するダガルガに、ウォードは「だろ?」と軽く返す。

 ここでテオが首をかしげながらたずねる。


「ねーダガルガ、あいつらって誰?」

「そうか、お前らは知らないんだったな! ちっと面倒な事になっててよォ……」

 



 エイバス冒険者ギルドのギルドマスターであるダガルガによれば、小鬼の洞穴の調査を始めた際、勇者(タクト)の正体がばれない様にするために、色々とぼかして曖昧な状態で手続きを進めたらしい。


 そして様子を見ながら辻褄つじつまを合わせられるよう、ギルドからは「現在諸々の情報を整理中。整理が完了次第、詳細は後日発表する」との声明を出した状態で、まずは『小鬼の洞穴の安全宣言』のみを発表した。


 ところが安全宣言発表直後から、一部の冒険者達を中心に、情報公開を求める声が上がるようになった。

 中でも「なぜ冒険者ギルドが小鬼の洞穴が浄化されたかもしれないと判断し、調査を開始したのか」という点は、彼らが最も公開を望む情報であったのだ。




「……といっても正直に全部情報公開しちまえば、タクトの正体がばれちまうだろ? かといって冒険者ギルドが持ってる情報は、基本的に冒険者へ開示するのが鉄則だからよォ……どうすんのが1番いいか、俺とウォードとステファニーとで相談してたとこだったってわけだぜ!」

「すみません、俺が正体を隠したいばかりにご迷惑おかけして……」

「ガハハハ! こんなもん、迷惑のうちに入んねぇよ!」


 俺が頭を下げると、ダガルガはその肩を叩いて大きく笑った。


「ダガルガに同じくだ。そもそもそういう声が出るだろうってのは、安全宣言発表前から予想できてたことだしな。まァ……トヴェッテの例にならって、なるべく事実に沿った架空証言と、それに合わせて()()()()()()()()調整した詳細でも公表しときゃ、情報公開求めてる奴らは満足するだろうから、安心しろ」

「ありがとうございます」


 穏やかなウォードの言葉に、俺は再び頭を下げる。

 と同時に、自分が安全のために正体を隠して旅が出来るのは、彼らの協力があってこそだと改めて強く思うのだった。





 公表内容に関しては、「実は匿名で『勇者が小鬼の洞穴から出てくるのを、偶然見かけた』という通報があり、ギルドはそれに基づいて調査した。情報提供者が匿名だったため、情報提供に関する発表を遅らせて事実関係を調査していた。だがこれ以上新しい情報が見つからず、またようやく情報の裏付けも取れたと判断できたため、この段階での発表となった」というものにしておけば、諸々丸く収まるのではないかという案が出た。



 通報内容を「勇者が小鬼の洞穴から出てくるのを偶然見かけた」としたのには理由がある。

 ボスとの戦いが、誰でも立ち入り可能な“開けた草原”で行われたフルーユ湖と違い、“壁で囲まれた専用のボス部屋”がある小鬼の洞穴では、フルーユ湖と同様「浄化するところを見た」という証言をするのはかなり無理があるだろうと考えたのだ。


 一応実際にその情報を発表するかどうかはステファニーらに相談してからにするものの、ダガルガ・ウォードとしては、この案を採用する方向で話を進めたいらしい。






 またダガルガは、冒険者ギルド・ザーリダーリ火山支部のギルドマスターと、ニルルク村に住むムトト――テオとウォードとダガルガのかつてのパーティ仲間――の2人に宛て、それぞれ「勇者であるタクトに協力してほしい」という旨の手紙をすぐに送付しておくとのことだった。


 船を利用してのギルド便経由で送れば、ここから陸路でニルルク村方面へ向かう俺達2人に先行して手紙を届けてもらえるだろうと。




「ムトトもつえーぞ! 初めてあいつの炎を見たときゃ度肝抜かれたぜ!」

「そうだな……ありゃ本当にやばかった……」



 かつて旅した仲間について語るダガルガ達。

 その笑顔あふれる様は、長い旅路で彼らが築いた強い絆をも物語っているような気がした。

 




**************************************





 ウォードは日付が変わる頃に帰宅し、俺とテオはそのままダガルガの自宅に泊めてもらった。




 翌朝、出勤するダガルガと共に家を出た俺達2人は、諸々の必要物資調達がてら、エイバスの街をぶらぶら歩く。


 前日に街へと到着した際は既に夕方で、ほとんどの店が閉まっていたこともあり、街の様子はあまり分からなかった。

 明るくなってから改めて歩くと、以前来た時よりも賑わいが増したように見えた。


 特に小鬼の洞穴ダンジョン化のせいで洞穴での採掘リスクが高くなり、それによって一番あおりを食らっていた職人街では、洞穴が浄化されたことで悩みのタネが無くなったらしい。

 あちらこちらで浄化を喜び合う世間話が聞こえたり、大きく『小鬼の洞穴安全宣言記念セール!』等と書かれた貼り紙を見かけたりすることができたのだった。


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