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第81話「ナディと、明かされた謎(6)」


 神様からもらった剣の封印を解き、勇者専用装備である『勇者のつるぎ』を手に入れた俺は、テオと共にネレディの別荘へ戻る。




 朝を迎えたフルーディアの街は、霧が完全に晴れたフルーユ湖を見た人々で大騒ぎになった。


 領主代理が主導となって混乱する人々をまとめたり、冒険者ギルドがフルーユ湖の現況調査の緊急依頼(クエスト)を街に滞在する冒険者へ発注したりと色々と頑張ってはいるのだが、明らかに各所で人手が足りな過ぎる状態。


 そこで急きょネレディとイザベルはフルーディア冒険者ギルド――残された職員が1人だけ――を手伝うために残り、あとの面々はトヴェッテ王都に戻って応援要請を行うことに決めたのだ。




「……王都に到着したらすぐ、冒険者ギルドへこの手紙を届けてちょうだい。そうしたら政府や関係各所への連絡やら、応援職員の派遣やら、必要な手配は全部ギルドが緊急で行ってくれるはずよ。私とイザベルは応援職員が到着次第、入れ替わりで急いで王都に戻るつもり。多少引き継ぎでごたつくとは思うけど……何としても数日中には帰るから、それまでタクトとテオは王都に滞在していてもらえないかしら。今回の件のお礼をさせてほしいのよ!」


 ネレディは俺達へと手紙を託すなり、慌ただしく冒険者ギルドの手伝いへと向かっていった。





**************************************





 支度を終えた俺・テオ・ナディ(&スゥ)は、ジェラルドが手綱を握る箱馬車に乗り込み、トヴェッテ王国の首都へと戻り始めた。



 しばらく馬車に揺られたところで、膝の上でくつろぐスゥを撫でていたナディが「あれ?」と何かに気付く。


「……ねぇタクト。ツルギがね、なんかいってるよ!」

「剣が?」

「なんだって?」


 俺とテオは、ばっと身を乗り出した。



 ナディは勇者のつるぎを見つめながら、同時通訳をしていく。


「ん~っとね……『かみさまからのデンゴンです。わたしにはまだ、ねむっているチカラがあります』」


 同時に「「おぉ~ッ!」」と声を上げる俺とテオ。

 

「『いまのわたしは、だい1だんかい。ねむるチカラは4つにわかれ、それぞれべつにフーインされています』」

「へぇ、第1段階ってそういう意味だったのか」


 勇者の剣の鑑定結果に書いてあった内容を思い出す。



「なぁなぁ、封印を解くにはどうすればいいんだ?」


 待ちきれなさそうにテオが聞く。


「えっと……『フーインをとくには……かくちのセイレイがかんりするアカシがひつようです』」

「ん? もしかしてそれって、精霊王のあかし?」


 ピンと来た俺がたずねた。


「『よくごぞんじですね』」

「あ、いや……ちょっと別件で聞いたんだよね……」





 精霊王のあかしは、ゲームにも存在するアイテムだ。


 プレイヤーはゲーム開始当初、光属性の魔術しか使えない。

 各属性の精霊――魔力の意思――をまとめあげる存在である『精霊王』の試練を突破して初めて、その属性の魔術を使えるようになる。

 そして試練突破の際、各精霊王から受け取るアイテムこそが『精霊王のあかし』なのだ。


 ゲーム上では『火の精霊王』『水の精霊王』『風の精霊王』『土の精霊王』の4人が確認されている。


 例えば『火の精霊王』の試練を突破すると、スキル【火魔術】を習得し、『火の精霊王のあかし』をもらえるといった具合で、4属性それぞれに対応するあかしが存在。


 ただゲームにおいては、4つの精霊王のあかしの使い道は不明だ。

 諸々試したプレイヤー達の間では「あくまで試練を突破したという記念の品で、特に効果は無いアイテムではないか」と言われている。




「……で、あかしをどうすれば封印が解けるんだ?」


 ゲームという存在に触れたくない俺は、ごまかすように少し話題をそらす。


「『てにいれたアカシを、わたしにふれさせてください』」

「それだけでいいのか?」

「『はい。ふれさえすれば、フーインはとけるはずです』」

「なるほどな……」


 ゲーム内での精霊王のあかし入手までの手順を、頭に浮かべる。




 入手しなくともゲームクリアはできるのだが、光以外の属性魔術を自分でも使いたい場合は、各精霊王の試練を受けるのが必須であるため、副産物としてあかしを手に入れるプレイヤーは多い。


 属性によっては試練の難易度が鬼のように高いが、属性によっては今の自分でも突破できそうな試練もあるし……この際、幾つか挑戦してみるのもいいかもしれない。




 俺がそんな結論を出したあたりで、テオが思い出したように言った。


「あのさー、勇者のつるぎは、タクトの味方だと思っていいんだよな?」

「『はい、もちろんです』」

「じゃあなんで武器屋に行った時、タクトを攻撃してきたんだよ? アレ、けっこー痛そうだったぜ?」



 言われてみると確かに気になる。


 先日トヴェッテの武器屋に行った際、なぜか剣は俺の左腕を攻撃してきた。

 他の行動はともかく、あれだけは悪意があるとしか思えなかったのだ。



「『そ、それは……』」


 それまで平然と語っていた剣が、カタカタと震えだす。

 俺が「どうした?」と聞くと、剣はまるで深呼吸をするように鞘からほんの少しだけ出入りする。


 そして、意を決したように震えを止めて答えた。


「『カミサマがおっしゃったのです。なにがあっても、ぜったいにタクトからはなれてはならないと。ですからわたしは、せいいっぱいひっしに、そのおことばをまもっております。ですがあのとき、ほかのケンをかおうとなさってたので……つい……もうしわけありませんでした』」


 ぺこっと柄を下げて謝罪する剣。



「いいよいいよ。そういう理由ならしょうがないし……これからもよろしくな!」


 ぽりぽりと頬をかきながら俺が答えると、剣の宝石がポロポロ泣き始める。


「『あたたかいおことば、ありがとうございます……もしタクトにすてられたら、わたし、カミサマに……カミサマに……』」



 再び小刻みに震えだす剣。

 


「神様に、何されるんだ?」


 俺がたずねるも、剣の震えは止まらない。



「『……これいじょうは、いえません』」



 それだけ伝えると剣はピタッと動きを止め、それ以後うんともすんとも言わなくなってしまったのだった。


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