第73話「フルーユ湖と、冒険者たち(3)」
俺達はフルーディアの街から霧の中へ突入。
引き続き、ネレディ、ナディ&イザベル、ジェラルド、テオ、最後尾が俺という隊形のまま、灰色の霧の中心部を目指していく。
襲い来る魔物達との戦闘を繰り返しつつ、常時【気配察知】スキルを展開した状態で注意深く進んでいくと、ようやくフルーユ湖の前へと到着した。
柔らかく流れる水音だけは聞こえてはくるものの、湖面部分は特に濃い霧で閉ざされてしまっているため、現在は湖の姿自体を見ることができないようだ。
何かを探すように、辺りをきょろきょろ見回すイザベル。
「えっと……あ、これです! この橋から、島に渡れるはずですよ」
イザベルが前方を指す。
彼女が指した方向をよくよく見ると、霧の向こうへと続くように橋が延びていた。
「確か島のほうが魔物が強くなるって話だったわね。気を引き締めていきましょう」
ネレディの言葉に一同はうなずき、そして引き続き慎重に橋を渡っていく。
フルーユ湖の湖面に加え、幅5m程の橋の上すらも霧で覆われていた。
かろうじて橋の手すりが左右に見えていることから、何とか島の方向を目指せてはいるのだが、それがなければどこを歩いているかすら分からない状況だっただろう。
俺は不思議な気分だった。
視覚的にはまるでふわふわの雲の中を歩いているかのように思えるのにも関わらず、歩を進めるたびにブーツ越しに感じる橋面の感触はしっかりと固いのだから。
しばらく進んだところで、遠くのほうにうっすら木々の影が見えた。
近づけば近づくほど、その輪郭はハッキリしてくる。
そして同時に、戦闘中の冒険者だと思われる声が多数聞こえてきた。
魔術を詠唱したり、仲間に指示を出したり。
島に上陸したところで、ネレディが溜息をつく。
「……聞いてはいたけれど、結構な数の冒険者がいるみたいねぇ。どうする?」
「そうですね……やっぱり実際に見ないと分からない部分もあると思いますし、とりあえず、現在の島の状況を確認してもいいですか?」
ほんの少し考えてから俺が答える。
真っ先にテオが「さんせーいっ!」と手を上げ、続いて他の面々も同意した。
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島自体は外周2km程度とそこまで広いわけではなく、遭遇した魔物達との戦闘を何度か挟みつつでも、俺達は約1時間で十分に全体を見て回れた。
確かに街にいた魔物よりも、島の魔物のほうが強くはあった。
だが今の俺達にとっては、大した脅威ではなかった。
問題はやはり、島のそこかしこにいる冒険者達。
肝心のボスが居ると思われるエリア――魔力増幅の中心部――には、特に多くの冒険者達がたむろっていたため、他の冒険者達に見られずにボスを探すのは厳しいのではないか。
そんな結論に達した俺達は、時間を置いて出直すことに決めた。
いったん灰色の霧の外に出て、フルーディアの街の中にあるというネレディ所有の別荘に向かう。
別荘は橋のすぐ近くであり、窓からは、先程まで潜っていた霧のエリアを間近から見上げることができた。
俺とテオは別荘の客用寝室を借り、しばらく仮眠をとる。
そして、人々が寝静まった深夜。
よく眠るナディと、彼女の護衛としてジェラルドとイザベルを別荘に残し、俺・テオ・ネレディの3人だけで改めてフルーユ湖を目指すのだった。