第62話「謎多き剣と、神様と(2)」
暗くなるには早い時間ではあったが、俺達は早めに宿屋に戻ることに。
2人ともこの宿の泊まり心地が気に入っていたため、戻ったついでにカウンターにて、ネレディ達との出発予定日まで宿泊を延長する手続きをしておいた。
あてがわれた客室に帰ってきたところで早速、謎だらけの『手作りの片手剣』を検証し始める。
剣を鞘ごと腰のベルトから外してテーブルの上に置き、俺とテオは剣を挟んで向かい合うように椅子に座った。
「さて……まず、どっから手をつけるかな……」
腕を組んで剣を眺める俺。
「ん~……」
手を口元に当てるようにして考えこむテオ。
エイバスからトヴェッテまでの約3週間の旅路の間、毎日がテント暮らしだった。
街灯も無く暗い夜道を歩くのも危険だろうと、街中に居る時よりも早めに休むようにしていたため、俺達には時間があった。
俺はその余った時間を、ほぼ魔術訓練や調べ物にあてていた。
その際、手作りの片手剣に関する情報も攻略サイトで探してみたのだが、めぼしい情報は見当たらず。
無理も無いだろう。
ゲームにおいてこの剣は、売却&譲渡不可能なただの弱い初期装備。
そんな剣に絞って色々試すプレイヤーなんて、いたとしても奇特すぎる。
プレイ開始後かなり早い段階で武器を買い替え、手作りの片手剣はアイテム欄に放り込んで放置……というのが俺含め大半のプレイヤーの選ぶ道なんだから、攻略サイトに手がかりが無くて当然だ。
また時々はテオと一緒に、手作りの片手剣について思いつく限りのことを試してみたのだが、特に大きな発見は無かった。
しばらく思考を続けた結果、俺は解決策に気が付いた。
神様に直接聞こう、と。
そもそもこの剣は神様が作ったものなのだ。だったら製作者に聞くのが最も早い。
何でこの方法に気付かなかったかなと苦笑しつつ、俺は黙って剣を鑑定する。
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名前 手作りの片手剣
種別 片手剣
売却目安価格 非売品(売却&譲渡不可能)
■説明■
物理攻撃力+10
製作者の愛がたっぷりこもっている
とても丈夫で軽く、初心者に最適な剣
■神の一言メモ■
ふぉっふぉっふぉっ、何か困っとるようじゃのう。
しょうがない、ワシがヒントをやろう。特別じゃぞ。
実はこの剣にはの……すんごぉーーーーい秘密が隠されておるんじゃあッ!
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「マジでっ!!!」
「!?」
思わず立ち上がって大声を上げる。
ビクッとするテオ。
「あ、ごめん」
「いや……それより何か分かったのか?」
「おう! この剣にはな、すっっっごい秘密が隠されてるらしいぞっ!」
「へ?」
テンション高めな俺の力説に、テオは困ったように言う。
「理由も無しに、いきなりそんなこと言われても……」
「あぁ、そうだよなぁ……」
「なんで分かったんだよ?」
「えっと……」
スキル【鑑定】使用時などに、俺だけに見える『神の一言メモ』。
神様情報なので間違いなく正しいはずなのだが、このメモの存在を知らないテオが、急に「すごい秘密が隠されてる!」とだけ言われても信じられるはずがない。
けれども、神の一言を見ようと思えば常時見れると、テオに教えてしまってよいものだろうか……いや、よくないな。
俺は、なるべく嘘にならない程度にごまかすことにした。
「実は今な、神様からのお告げみたいなものがあったんだ」
「神様から?!」
今度はテオが立ち上がって驚く。
「うん。その内容が『剣にすごい秘密がある』って事だったんだよ」
「すげー! で、どんな秘密?」
「……そういえば、具体的に内容聞いてないな」
俺の言葉に反応するように、ウィンドウが更新される。
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■神の一言メモ■
ワシがぜんぶ教えてしもうては、お主が成長せんじゃろ。
ヒントは以上じゃ。
お主のためにも、自分自身の力でしっかり精進するんじゃぞっ!
まぁどうしてもというなら……剣に直接聞くがよかろうww
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「け、剣に直接聞くってどういうこと……」
俺が質問しかけた瞬間、強制的にウィンドウが閉じた。
「おいこら待てぃ!!!」
すかさず大声でツッコむ俺だったが……。
「タクト?」
とテオから怪訝な顔で声をかけられ、傍から見れば自分が1人で喋ってるようにしか見えないのに気付いてしまった。
「……わりぃ。たった今、神様から追加のお告げみたいなのがあってさ」
「おぉーっ!」
歓声を上げたテオが、ワクワク顔で勢いよくたずねてくる。
「で! 神様は何だって?」
「それが…………全部教えたら俺のためにならないから自分で考えろ。ヒントは以上。どうしてもっていうなら剣に直接聞け、だって」
テオは、がっくりとテーブルに両手をついた。
剣に直接聞くって、どういうことだよっ!
ていうか神様がそう言うってことは、剣とコミュニケーションとれる何かしらの方法が存在するってことじゃねーかっ!!
全然分かんねぇーーッ!!
俺は頭を抱えつつ、心の中で1人「結局、謎が増えただけかよぉぉぉォッ!!」と叫ぶしかなかったのだった。