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第51話「テオと、夜のトヴェッテと(2)」


 宿屋にて遅めの朝ごはんを食べている最中、前日夜に情報収集をしていたと意味ありげにテオは笑った。



「……情報収集?」


 よく分からないながらも聞き返す俺。


「うん。やっぱ情報を制する者は何とやらっていうし、情報って大事だよな!」

「そうだけど……それならそうと事前に言ってくれれば俺も一緒に――」

「あまいっ!」


 ピシッとテオにさえぎられ、俺は思わず「へ?」と間抜けな声を出した。



 テオは一息ついてから、困ったような笑顔で話を続ける。


「……あのさー、大事な情報持ってるのは、たいてい一筋縄じゃいかないような、面倒で警戒心が強い奴って事が多いんだぜ? だからそういう奴に怪しまれないように上手く潜り込んで仲良くなって、こっそり観察して、欲しい情報の手がかりを見つけて分析して、正しいかどうか裏もとって……時には不測の事態に対応しなきゃなんない。ちょっとでも失敗したら全部が水の泡になっちゃうかもしれない。特にトヴェッテはさ、考えられないような額のお金が1晩で動くだけあって……結構ヤバい奴も多いんだよね……」



 その言葉に、俺はゲーム内でのトヴェッテを思い出した。




 トヴェッテ王国の王都は芸術を愛する者が多く住むことから『芸術の聖地』とも呼ばれ、また裕福で余裕ある者の割合も高い一見華やかな都市だ。

 だがあくまでこれは()()()に過ぎない。

 表通りから道を外れ、薄暗い路地裏に足を踏み入れると……途端にそこは()()()()と化すのだ。


 そんなトヴェッテの裏を象徴するのは、やはり『カジノ・トヴェッテ』だろう。

 黒い壁に金の装飾が施され、遠くからでも派手で目立つその建物は、入会費用も賭金も高額で、一般人は入場すらできない「金持ち専用の会員制超高級カジノ」として世間に広く知られている。


 

 ゲームではプレイヤーも、高額な入会費用さえ払えればカジノの会員になれる。

 カジノ内では様々なゲームを遊べるのだが、賭金も高いため、下手に大負けすると有り金がすっからかんになってしまうことも。


 また、あまりにも勝ちすぎると、普通は入れないVIPルームへと呼ばれる。

 そこでカジノスタッフから「イカサマではないか?」と因縁を付けられ、超高額な慰謝料を要求されるというイベントが発生するのだ。




 実はカジノ・トヴェッテこそが「トヴェッテの闇を仕切る裏の組織の本体」であり、プレイヤーはこのイベントで初めて組織の存在を知る。


 その組織の名は『黒の錨(ブラックアンカー)』。

 組織創設者が元々船乗りで、その持ち船のいかりが黒い色をしていたことから、この名がつけられたと言われる。


 なお組織構成員は、体のどこかに『黒い鎖と錨』がモチーフである『揃いの小さな入れ墨』が彫られており、このモチーフは構成員同士のきずなおきてを表しているらしい。




 慰謝料――カジノでの儲けと同等額――を素直に払えば、無傷で解放される。

 だが支払いを拒否すると、問答無用で組織の戦闘員達との連続戦闘(バトル)へと突入するのだ。


 戦闘員達は強者揃いなため、こちらに実力がないと容赦なく叩きのめされる。

 もし負ければゲームオーバーとなり、セーブ時点からの再開となる。


 そして連戦の最後、組織のボスとのバトルに勝利した場合、そのまま黒の錨(ブラックアンカー)を壊滅させるか、自らが黒の錨(ブラックアンカー)のボスになるかを選べる。


 ボスルートを選んだ場合、定期的に高額な上納金を得られたり、組織構成員を自由に手足として使えたりするということもあって、プレイ2周目以降の『強くてニューゲーム』勢には、密かな人気ルートとなっているのだ。




 どう考えても今の自分の実力じゃ、戦闘員達と太刀打ちできるわけがない……と考え身震いしてしまった俺は、おそるおそるテオにたずねた。


「テオ……お前まさか、黒の錨(ブラックアンカー)のカジノに――」


「!!!」

 

 急に怖い顔になったテオが立ち上がり、右手でバッと俺の口をふさぐ!



 固まる俺。


 テオは素早く耳をすませ、辺りの様子を慎重に伺う。

 ややあってホッとしたような溜息をつき、手をおろした。




「…………よかったー、誰にも聞かれてなくて……」


 とテオはぐったり椅子に座り込んだ。




「……なんか……すまん」


 よく理解できないながらも俺は一応謝っておく。



「ううん。あの組織の名前だけは、絶対口にしちゃダメだぜ? 下手すると……」


 ここまで言ったところで、テオは真面目な顔をして黙り込む。




 俺はこわごわ聞いてみる。


「……下手すると?」



 ゆっくり顔を上げ俺の目を見るテオ。

 そして、ただ一言つぶやいた。



「……消されるぞ」




 俺の背筋が、スーッと凍りついた。


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