第50話「テオと、夜のトヴェッテと(1)」
夕食後に1人どこかへ出かけたテオは、珍しくなかなか戻ってこなかった。
俺は攻略サイトで情報を集めつつ、宿で起きて待っていることにしたのだが……。
――…………クト…………タクト!
「んぁ……?」
急に揺り起こされる。
寝起きでぼーっとしつつも体を起こすと、目の前にいたのはテオだった。
「こんなとこで寝たら風邪ひくぜ?」
「……」
段々はっきりしてくる頭。
状況を見るに、俺はどうやら椅子に座ったままテーブルに突っ伏して眠り込んでしまっていたらしいな。
軽く欠伸してから、たずねてみる。
「……テオは、いつ戻ってきたんだ?」
「たった今だよー」
「今何時?」
「えっと……」
腰につけた時計を見て答えるテオ。
「朝の4時過ぎだって」
あれ? テオが出かけたのは昨夜の21時前だったはず……いつもなら、ここまで遅くなるような事はなかったんだけど。
「……テオがこんなに遅くなるなんて珍しいな」
「まぁねー」
「またどっかで演奏でもしてたのか?」
「それもあるけど…………」
含みをもたせるように言葉を切るテオ。
「……なんだよ?」
テオは答えの代わりに「ふあぁ~」と大きく欠伸をしてから、眠そうに言う。
「詳しくは明日でいい? あ、日付変わってるから今日か……まぁいいや、とにかく眠いから寝る! おやすみー」
言いたいことを言うなり、テオはベッドに倒れ込んでしまった。
「お、おい……テオ?」
恐る恐るベッドに近寄り声をかけてみる俺だったが、テオは既にスースーと気持ちよさそうに眠り込んでいた。
「はぁ……相変わらずマイペースなやつだな……」
大きく溜息をつく。
テオが何を言いかけたのか気になりはするものの、これじゃどうしようもないと割り切って、もう1つのベッドで寝ることにした。
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「……ん? 朝か……」
カーテンの隙間から差し込む太陽光で目を覚ました俺。
まだ眠い目をこすりつつカーテンを開け、部屋の時計を見る。
「……9時……45分……?」
違和感を覚える。
次の瞬間、ハッと眠気が飛ぶ。
「9時45分!? やべっ!」
チェックアウト時刻は10時。
時間ギリギリという事に気付き、慌ててテオを起こす。
「起きろ! チェックアウト寸前だぞ!」
「……すぴぃー……」
「テオッ!!」
「…………すぴぴぃー……」
起きる気配が一切ない。
「……ダメだこりゃ」
諦めた俺は宿の受付カウンターで理由を話し、連泊への変更手続きをする。
朝食も10時までということだったのだが、従業員が気をきかせ、部屋で食べられるように包んでくれた。
無事に手続きできたのにホッとしつつ、俺はあてがわれた客室へと戻る。
ガチャッと扉を開けたところ、先程と同じくベッドの中にいるテオが目に入った。
「テオ?」
一応近寄って声をかけてみたが、テオは笑顔で寝息を立て続けている。
「……ま、そのうち起きるだろ」
気長に待とうと決めた俺は、まずは朝食でも食べようと、包んでもらった食事を1人分だけテーブルに並べる。
朝食メニューは、焼きたてパンが2種類――昨日と同じ硬めパンをスライスしてトーストしたもの、触っただけでパリッと薄皮がはがれそうな焼きたてクロワッサン――、焼き目のついたハムの角切り入りスクランブルエッグ、葉物野菜とニンジンのシンプルサラダ。
後はポットに入った熱々のホットコーヒー、コーヒー用のミルクと砂糖。
ふわぁっと部屋一杯に広がる、焼きたてパンの香ばしい匂いや、淹れたてコーヒーの優雅な香り。
食欲をそそる匂いに俺の顔がニヤけた瞬間。
彼の背後から大きなお腹の音がした。
――ぐぅーきゅるる……
「ん?」
振り返ると、そこにはおいしそうな匂いに誘われたテオが、上半身を起こし寝ぼけ眼で鼻をひくひくさせる姿があった。
「……テオも食うか?」
「食べる……」
とりあえずたずねてみたところ、テオはまだ半分眠そうながらもベッドから降りてきたのだった。
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「…………う~ん♪」
ミルクと砂糖をたっぷり加えたホットコーヒーに、クロワッサンの端っこをじゃぶっと浸す。浸したところをパクッと頬張るなり、テオの顔はほころんだ。
同じように浸してはかじりを繰り返し、2口3口と食べ進めていく。
俺はというと、硬めパンにサラダとスクランブルエッグを挟み、サンドウィッチにして食べる。
確かに凄くおいしいのだが、今の俺には、もっと気になることがあった。
「……なぁテオ、言いかけたことって何だったんだ?」
「え? 何のこと?」
テオは食べる手を止め、首をかしげた。
俺はさらに言葉を続ける。
「ほら、寝る前に何か言いかけてただろ?」
数秒考えてから、テオは「あぁ、あれかっ」と心当たりに辿り着いた。
「たぶん、俺が昨日何してたかってやつ?」
「そうそれ!!」
「ん~……ひとことで言えば……情報収集、ってとこだな!」
テオは意味ありげに、ニヤッと笑うのだった。