第45話「星屑のリュート」
レーボリッヒ村の村人達との宴会が終わったあと、俺とテオは広場に設営したテントで休むことにした。
就寝準備をしている最中に、ふっと思い出した俺が聞く。
「……なぁ、さっきのってどうやったんだ?」
「さっきの?」
「ほら、演奏中にパァッと辺りが光るやつ」
「あぁ! あれはね……」
テオが、先程奏でていた楽器――花柄の透かし模様が刻まれたリュート――を魔法鞄から取り出す。
彼によれば、この『星屑のリュート』は、魔導具――素材に魔石を使い、魔力を籠めると魔術を発動できる道具――でもあるらしい。
以前たまたま通りがかった骨董品店で見つけて気に入り、少し高額ではあったが、数日迷った結果、思い切って購入したのだという。
テオに言われ、俺はリュートを鑑定してみた。
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名前 星屑のリュート
種別 道具
売却目安価格 32100R
■説明■
弦楽器
辺りを神秘的な明かりで照らすことができる
火・水・風・土の上級魔石を使用した魔導具
【耐久加工LV3】
【防汚加工LV3】
【防水加工LV3】
【防燃加工LV3】
■神の一言メモ■
800年程前に作られたもんじゃが、まだまだ現役みたいじゃな。
むしろ作られたばかりの頃より良い音色が出るようになったようじゃの。
それにしても、さっきの演奏も良かったのう……ワシが「また聴きたい」と言ってたと、テオに伝えておいてほしいんじゃっ!
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いや、そもそも『神様の一言が見える』なんて言えるわけないだろ。
心の中でツッコんだ俺は、メモは見なかったことにしてテオとの会話を再開する。
「……なるほど、楽器自体が明かりを出す魔導具になってるのか」
「そういうこと!」
いったんテントの中を照らす火の魔導具の明かりを弱め最低限の明るさにしてから、テオは実演も交えつつ説明し始めた。
「さっきの演奏の時は、このリュートのヘッド部分に仕込んである『水の魔石』だけに魔力を籠めたんだっ。ほら、こんな風に」
テオがヘッド部分に触れて軽く魔力を籠めると、リュートから、ほんのり青く輝く光の粒が10個程飛び出す。
「で、籠める魔力の量を少し増やすと――」
再びテオが魔力を籠めると、先程の何倍かの青い光が追加された。
「……ちなみに他の属性の魔石部分に魔力を籠めると、光の色が変わるんだぜっ」
「へぇー。やっぱり火だと赤、とかそういう感じ?」
「そう。風の魔石だと緑っぽい光になって、土の魔石だとオレンジっぽい光になるんだ。ちょっとやってみるぞ? まずは火、お次は風……」
テオがリュートへ触れるたび、様々な色に光る粒たちが、パッと散らばっていく。
気が付けばテント中には色とりどりの光がきらめき……座って天井を見上げると、そこはまるで、小さなプラネタリウムに来たみたいだった。
「すごいな……」
つい俺がもらした言葉を聞いて得意気になったテオは「よ~し、じゃあ今日は特別に……」と満面の笑みを浮かべ、大げさなポーズで思いっきり魔力を籠めた。
「いくぞ! 全属性、出力全開ッ!!」
――ビガァッ!!!!
「「!?」」
目の前がベタッと白で塗りつぶされる程の、強烈な眩しさ。
さすがにヤバいと本能的に感じたテオが即座に明かりを消すものの、奪われた俺達の視界はすぐには戻らず……。
何とか視力が回復するまでの数十秒、俺とテオはうずくまったままだった。